第363話
私は二人の姿を見た時、怒りで頭の中が真っ白になった。
『GYAAAAAAAAA!』
その直後、とんでもなく大きな叫び声が外から聞こえてきて、私もすぐに我に返った。
目の前にいたイザーク兄様は、目を手で隠しているし、オズワルドさんたちも、眉間に皺を寄せながら、目をしぱしぱさせている。
「え、あ、あれ?」
「ミーシャ! いきなり光るなっ!」
珍しく、イザーク兄様が怒ってる。
どうも怒りで、無意識にフルパワーで浄化を発動してた模様。黒い靄がきれいに消えている。
『アハハハハ! さすが美佐江だ。とんでもないな』
そう言った風の精霊王様が、楽し気に宙を浮いている。
「そ、それよりも、さっきの叫び声って?」
『ふ、ふふ、恐らく、あの物騒なモノの断末魔だろう。外の空気が、一気に軽くなっているぞ』
「え、ほ、本当!?」
私は締め切られたカーテンを一気に開けて、外を見る。
「……傘雲が消えてる」
あの重苦しい感じの黒い傘雲がすっかり取り払われて、真っ青な空が見えた。
「ミーシャ、それよりも」
「そ、そうだった! でも、この結界は」
『フン、この程度、私の力で……ほい』
精霊王様の指先が触れただけで、あっさり、パリンと壊された。
血まみれのエドワルドお父様に、私は急いで『ヒール』をかける。顔色は青いままだが、呼吸は安定しているようだ。
そしてアリス母様へと視線を向ける。なぜ、右肩から袖を破られているのか、わからないけれど、おかげで、枯れ枝の状態が腕だけで済んでいることはわかる。
「……これって、あの呪いと同じ?」
「ミーシャ、ウルトガのアレか」
イザーク兄様が、かなり怖い顔をしている。美形を本気で怒らすと、とんでもなく怖くなるのを初めて知った。うん、怒らせてはいけない。
「たぶん……どうして母様がっ!『ディスペル』!」
私もかなり怒っていたのだろう。『ディスペル』をかける加減が出来なくて、この部屋中に広がってしまった。
――それに反応したのが、アリス母様の他にもう一か所。
落ち着いて見渡せば、この部屋には天蓋付きのベッドが部屋の片隅に置かれていたのだ。そのベッドの方でも、『ディスペル』に反応した光があがった。
「イザーク兄様! あちらに誰かがいるみたい」
私の言葉にすばやく反応したのはカークさん。
薄い布で覆われていたところを、スッと覗き込む。
「こ、これは! ミーシャ様、こちらにも『ヒール』を!」
「なんですって」
すでにアリス母様の腕は元に戻っている。まだ意識は戻ってはいないものの、大丈夫そうなので、私はベッドの方へと向かう。
「……なんてこと」
そこには、私と同い年か、少し上くらいの少女が、血の気のない真っ白な顔で、かなり瘦せ細った状態で眠っていた。呼吸がかなり浅い。『ディスペル』で呪いは解けたようだけれど、それ以前に、身体の状態がよくなかったようだ。
私はすぐさま『ヒール』をかける。
少しだけ、彼女の頬に赤みが戻ったように見えた。
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