第151話
王城内の一室。本来なら、夜会の会場のざわめきが微かに聞こえてくるはずだけど、私が念のために結界を張ったから、まったく外の音は聞こえない。
大きめなソファに、横たわるマルゴ様。それを心配そうにそばにしゃがんで見つめるヴィクトル様。マルゴ様の細い指を撫でているその絵面は、美男美女で美しい。
「ずっとマルゴ様、顔色悪そうだったのに、なんで気付かないんですか」
「ミーシャ」
イザーク兄様に窘められても、不敬だとわかりながら、ついつい文句の一つも言いたくなる。
「……すまん」
「いや、謝られるのは私ではなく、目の前にいるマルゴ様でしょう」
「……そうだな」
かなり苦しそうな顔で見つめる姿に、おばちゃんも許してやるか、という気持ちになる。そのまま、ヴィクトル様は言葉を続ける。
「言い訳にしかならないかもしれないが、最近、理由もなくマルゴの存在が……疎ましく感じていたんだ」
「……何それ」
おっと、つい、怖い声がでちゃったよ。ヴィクトル様、ビクッと肩を震わせて、怯えたように私の方へ目を向ける。
「わ、わからんよ。彼女が傍に来るだけで苛々したり、声を掛けられるのも嫌に感じてた……だから、最近は、まともに彼女との会話もなくて……」
「最近って、どれくらい最近です?」
「ん~、どうだろう……」
「ここ一週間が特に酷かったですね」
「……ゴードン」
「お話中、失礼いたします」
部屋の入口近くに控えてた若い男の子……たぶん、ヴィクトル様の従者ってところだろうか。
「マルゴ様とヴィクトル様は、幼い頃から婚約者として、仲睦まじくされておりました。それが、ここ一週間ほど、どうもお二人の関係がぎこちなくなったように感じておりました。特にヴィクトル様が。何がきっかけだったのか。私ども従者も、いつもおそばに控えておりましたが、そのきっかけがわからず、心配しておりました」
「そうです。マルゴ様がご実家でご苦労されてることもご存じだったのに、最近は気遣う言葉もなし、マルゴ様がご相談したそうだったのも無視されて。ヴィクトル様が!」
「ちょ、ゴードンにホルトまで!」
二人目の従者くんは、ずいぶんとキツイ言い方に、私もちょっとびっくり。ヴィクトル様も自覚があるからこそなのか、焦り気味。
「……ゴードンとホルトの二人は、ヴィクトル様の乳兄弟なのだよ。帝国の学院にも共に留学していた仲なんだ」
イザーク様がこっそりと教えてくれた。
「ちょっと私が気になっているのはですね」
私の言葉に、皆が振り向く。マルゴ様はまだ目を覚まさない。
「さっき倒れる直前、マルゴ様の手首に、黒い埃が纏わりついていたようなんです」
「……まさか?」
ヴィクトル様は、すぐに連想できたのかな。
「ええ。彼女、呪われてたのではないでしょうか?」
アニメやドラマだったら、『ガガーンッ』とでも効果音が入っただろうけれど、現実にはそんな音はしない。
「まさか」
「マルゴ様の手首、見ていただけます?」
私の言葉に、ヴィクトル様は彼女の細い手首に手を伸ばす。
「これは、確かこの前、カリス公爵から頂いた、と言ってマルゴが嬉しそうに見せてくれたブレスレットだな」
「ん~、ブレスレットについている石、割れてるみたいですね」
華奢な造りの美しいブレスレット。大きめな赤い石のまわりに透明な小さな石がちりばめられてる。その赤い石が斜めにヒビが入っていた。
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