第152話

 するりと、マルゴ様の細い手首からブレスレットをはずす。

 私の鑑定では、『呪いのブレスレット(破損)』と出ていて、すでにその効果はない。でも、どういった呪いなのか、まではわからなかった。これ、もっと鑑定のスキルを上げていくとわかるようになるんだろうか? それとも、教会関係者ならわかるのだろうか。

 私は謁見の時のことを思い出しながら考える。


「イザーク兄様、枢機卿様と連絡はとれます?」

「いや……私はあの時、初めてお会いしたので無理だ。そう言えば、今日の夜会ではお姿を見ていないな」

「エンディメン枢機卿であれば、私が伝達の魔法陣で手紙を送ろう」


 ヴィクトル様が名乗りを上げる。


「お願いします。たぶん、このブレスレットが呪いの効果を持ってた物です」


 私の言葉に、同じ部屋にいた人たちに緊張が走る。こうも『呪い』とか身近にあるのって、なんともいえず、王都というのは嫌な場所だなぁ、と思いながらブレスレットを見つめる。


「もう破壊されているので、大丈夫だとは思います。でも、呪いの種類までは私もよくわからないので、枢機卿様に見ていただくべきかと。ただ……腹……じゃなく、カリス公爵に見つからないように、とだけ」

「……それは何故? 彼女の父親だぞ。倒れたのであれば……」

「このブレスレット、その父親から貰ったんですよね?」

「……そうだが」

「そのブレスレットに呪いがかかってるんですよね?」

「……」

「マルゴ様のご様子は、嬉しそうだった。きっと肌身離さずお持ちになったのでは?」

「……まさか、自分の娘に呪いのかかった物をわざと持たせたとでも、と申すのかっ!?」


 ようやく私の意図に気付いたのか、ヴィクトル様は顔を青ざめさせながら、声を荒げて問いかけてくる。

 彼らが普通の仲の良い親子で、体調を悪くして倒れたのなら、すぐにも呼び寄せるべきだと言っただろう。しかし私が話を聞く限り、マルゴ様には可哀相だけど大事にはされていないと思う。そもそも、彼女が倒れた同じ会場にいたにも関わらず、こっちに気付いていなかった。傍らにいる自称『聖女』の方にしか関心がなかったわけだ。そして、現時点でも、この場に来てないってことだけでも、彼女に対する関心の薄さがわかるというものだ。

 それほど付き合いのない私でも、想像がつくというのに、この王子、大丈夫か。私の中での、ヴィクトル様への評価がどんどん下がっていく。『あんた、馬鹿か?』と、喉から言葉が出そうになるのを、なんとか飲み込んだ。


「今は時間がないんで、先に枢機卿への連絡をお願いします」

「あ、ああ」


 ヴィクトル様は納得のいかない顔をしてはいたが、すぐさま魔法陣で可愛らしい青い鳥を呼び寄せる。青い鳥は枢機卿宛の短いメモを受け取ると、閉じられた窓のガラスをすり抜けて、宵闇の中へと飛んでいった。

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