第285話

 ガサガサと細い獣道を走る私たち。移動しながらも、私はアイテムボックスから、アンデッド用の武器を探しだす。パメラ姉様には聖属性が付与された長剣を、ニコラス兄様には、同じく聖属性が付与された弓矢を渡す。何があってもいいように、色んなものを詰め込んできている。うん、事前準備は大事だわ。

 それにしても、ニコラス兄様、真っ暗な森の中を走り抜けるスピードじゃないよ!


「こ、今度は、左側っ、」


 ゆっさゆっさと揺れながらも、ナビ役に徹する私。その指示に迷いなく動き回るニコラス兄様は、さすがだ。ヘリウスたちも、最初は「どうなってんだ」と文句をたれてたけれど、魔物とほとんど遭遇しないでいる現状に、無言になっている。

 やはり階層が深いせいなのか、アンデッドのランクが高いせいなのか、私がいてもいくつかの赤い点がゆっくりと追いかけてきている。

 ここで一発で浄化しちゃえば楽なんだけどなぁ、と思うけど、後を走っている獣人たちの存在が、安易にできなくさせている。正直、ウザい。

 そんな中、地図情報にすごいスピードで動く赤い点が一つ、突然現れた。


「兄様、なんか早いのが一体来るっ」

「わかった、一旦、応戦するか、パメラ」

「任せて」


 息も乱れずに、立ち止まる双子。特にパメラ姉様はヤル気満々。目がキラッキラッしてる。うん、わかってた。一方で獣人たちも、剣を構える。イスタくんも身体に合ったサイズの剣を手に、真剣な顔。

 ニコラス兄様に地面に降ろされた私がやってくる方向を指差すと同時に。


 ――HYAAAAAOUUU!


 絹を引き裂くような声が上空から聞こえてきた。あまりの高音に、耳を塞いでしまう。


「何、あれ」


 見上げると、真っ赤な空に、大きな黒い布のようなものが、バサバサとはためきながら落ちてくる。


「くっ、いきなり、レイスかよ」


 ニコラス兄様の嫌そうな声。

 最初、ただの布かと思ったら、あれ、一応、ボロボロな黒いローブだった模様。フードの下からは、まるでムンクの叫びのような顔らしきものがぼんやりと浮かんでいる。なんか映画で見たことあるような。もしかして、生気吸い取る系?


 ――HYAAAAAOUUU!


 レイスの甲高い叫びに怯むことなく、弓を構えるニコラス兄様。すぐさま、いくつもの矢を放たれると、青白い光の線がレイスのローブに突き刺さる。黒い布が切り裂かれてはいくものの、決定打にはならないみたい。


「ちょっと、大きすぎない!?」


 地上近くまで落ちてきたレイス。たぶんヘリウスの倍以上ある。大きさが予想外だったのか、珍しくパメラ姉様が焦ってる。初めて見る私には、そういうものなのかと思ったけど、違うのか。


「任せろっ」


 ヘリウスの怒鳴り声に、慌てて目を向ける。彼の手に、パメラ姉様の長剣より倍以上大きい剣が現れた。え? と思っているうちに、ヘリウスがレイスの頭上に飛び上がった。


 ……レイスは叫び声も上げる暇もなく、ヘリウスに一刀両断されていた。


 唖然としながら、獣人の身体能力、半端ない、と実感した瞬間だった。

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