第284話
翌日、私たちは再びダンジョンに向かうことになった。双子が階層チャレンジを望んだから。それも、五十六階以上に進む気なのだ。約五日かけて、やっと四十階についたばかりなのに、これから階層更新するなんて、どれくらいかかるのか。なぜかヘリウスたちも同行するらしい。公爵の仕事が終わって暇なんだとか。
ちなみに、お茶の農園も見ていないし、当然、お茶の購入も出来ていない。朝起きて着替え終わった途端、ニコラス兄様に抱えられていた。その上、朝食抜きで、そのままダンジョンに直行とか、ひどすぎる。朝食は大事なのに。
「攻略終わったら、存分に付き合うからさ」
「いつ終わるのよっ!」
「ヘリウスもいるから、すぐだよ、すぐ」
「おう、任せろ。あっという間だ」
イスタくんもコクコクと頷いている。イスタくんも一応冒険者登録をしているらしく、こう見えてすでにCランクになったばかりなのだとか。私と見た目変わらないのに、既にCランクと聞いて、びっくりした。
普通に十七歳くらいの人族じゃ、よっぽどでなければDランクが平均だと聞いている。それを思うと、二十一歳の双子が既にAランクっていうのがおかしいんだと思う。私? 私は永遠のEランク。たぶん、これ以上は上がらない……はずだ。
ダンジョンの入口で受付を終ると、転移の部屋で目的地、四十階に飛ぶ。全員が四十階に飛んだところを見ると、ヘリウスたちもまだ五十階までは攻略していない、ということなんだろう。
転移の部屋を出てすぐ、鼻につく腐敗臭に顔を顰める。獣人の二人は、もっとキツそう。イスタくん、すでに涙目。
そして、私たちの目の前に、真っ赤な空に真っ暗な森が広がっている。これでヨーロッパのお城みたいなのがあったら、ドラキュラあたりがいても驚かない。まさに、なんか、出そうな雰囲気。『逢魔が時』という言葉が頭に浮かぶ。
「四十階からは、少しばかり面倒なんだよな」
ヘリウスのどこかうんざりしたような声に、なんとなく予想ができてしまう。もしかして、アレですか。アレが出るんですか。
うぉぉぉ~
あぁぁぁぁ~
どこかから、微かに不気味な呻き声がいくつも聞こえてきた。
「アンデッドが来るぞ」
ヘリウスの押し殺した声に、全員が身構える。
アンデッド……ゾンビみたいなのが来るってこと。話には聞いていても、今まで実物は見たことがない。あちらでもホラー映画は好きではなかったので、ゾンビものとかはCMで見た程度。それですら、嫌だなぁ、と思うのに。こんなフロアはさっさと突破するに限る。
地図情報をさっさと立ち上げる。赤い点がゆっくりと動いてるのがわかる。あの手の魔物は、動きが遅いのだろうか。そのうちの数体が、私たちの方に向かっているのがわかる。
出口は、直線で行くなら右手の奥。途中に大きな池のようなのがあるようで、そのままは進めないようだ。そして、右手の方が赤い点の数が多い。私が出口の方向を指摘すると、ヘリウスたち獣人はギョッとした顔をする。しかし、今は、そんなことを気にしている場合ではない。
「パメラ姉様、ニコラス兄様、敵は右側に多くいます。まずは、左手からまわりこみましょう」
「了解」
「は? どういうこった!?」
驚きの声をあげたヘリウスをよそに、私は再びニコラス兄様に抱えられる。とりあえず、行けるとこまで抱えて走るつもりらしい。私も二人に身体強化の魔法をかけると、地図に目を向ける。
「あっちが手薄です」
「いくぞ」
「チッ、後で説明しろっ」
……するわけないでしょ。
ニコラス兄様に抱えられながら、あっかんべー、と舌を出す私なのであった。
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