第141話

 指示を出し終って、ホッと息をついている様子のマルゴ様に、ジーナ姉様が声をかける。


「マルゴ様」

「はい……あ、もしや、リンドベル辺境伯夫人でいらっしゃいますか」

「ご無沙汰しております。お変わりございませんか?」

「……はい」


 明らかに作り笑いしてるよなぁ。それでも、公爵家としての誇りなんだろう、私は大丈夫、っていうのが伝わってくる。確か、まだ十八と聞いている。これだけの規模のお茶会を仕切ることができるというのは、いつでも嫁に行けるって話よね。というか、さっさと嫁にいっちゃえばいいのに。


「ご一緒されているのは、パメラ様でしょうか」


 変化で見た目は変えられたけれど、話し方とかまでは真似られないので、パメラ姉様と面識ある人がいたら笑顔で挨拶だけする、と決めていた。だから声を出さずに、ニッコリ笑みだけを浮かべた。すると、マルゴ様、ほんのり頬を赤くしている。


「まぁ……パメラ様は各国で冒険者としてご活躍されていると、よくヴィクトル様からお話を伺っております。同じ学園の生徒として、誇りに思っておりますわ」


 なるほど。パメラ姉様は後輩たちの憧れの存在だったのね。パメラ姉様、美人だもんね。女子にも人気がありそう……うん? ちょっと、失敗したかしら。内心、冷や汗をかきながら、苦笑いを浮かべる私に、ジーナ姉様はクスリと笑う。むーん、他人事だと思って。


「ああ、立ったままで失礼いたしました。リンドベル辺境伯夫人、お席のほうは」

「いえ、今日は手土産をお渡ししたら失礼しようかと」

「え、まだ……」


 マルゴ様の困惑する顔。そりゃ、頑張って準備してたのに、って思いにはなるよね。でも、申し訳ないけど、ここに長居する気分じゃないのよね。


「昨日の王妃様のお茶会で勧められましたお菓子ですの。偶々、うちの者が用意していたのですが、人気があるそうですね。どうぞ、お召し上がりになって」

「まぁ、これは……ありがとうございます」


 姉様の傍に仕えていたライラが、お菓子の入った小さな木箱を差し出した。本来なら、マルゴ様の傍にいるはずのメイドか従僕が受け取るものだろうに、彼女の傍には誰一人近寄る者もいなくて、結局、マルゴ様本人が受け取ることに。

 周囲を見ると、誰一人、彼女を気にする者がいない。

 なぜ彼女がこんなにも蔑ろにされているのだろう。公爵家の長女であり、仮にも第二王子の婚約者なのに。チラリと公爵夫人の方を見ると、扇子で口元を隠しながら、嘲るような目でこちらを見ていた。そういうのでお里が知れるってものだ。私は苛っとしながら、姉様の後をついてお茶会の会場を出る。


「……姉様」

「静かに。話は馬車に乗ってからにしましょう」


 この屋敷では、どこで誰が聞いているかわからない、ということか。私たちは無言で屋敷から出ると、我が家の馬車に乗り込むのであった。 

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