第142話

 馬車の中で姉様から聞いた話。

 なぜ、マルゴ様がまだお嫁に行っていないのか、というと、彼女本人の意思もあって学園を卒業してから結婚することになっているらしい。まだ学生さんだったのね。こちらでは結婚のために学園を中退することは普通のことらしいが、彼女はきちんと卒業したいとか。


「卒業はいつなんです?」

「あと半年といったところかしら」


 それまでこの屋敷で公爵夫人たちに、いいように使われるのか。そう思ったら、ジリジリとした怒りが胸の奥で燻り始める。学校の寮みたいなものはないのか、と思ったら、王都内に住んでいる場合、自宅から通うらしい。寮に入るのは、通うことのできない者だけだとか。


「では、早めに王城に上げて、ヴィクトル様のお傍にってことは出来ないんですか?」


 それこそ、お妃教育的なもので呼び寄せるとか。だけど、姉様が困ったような顔をしながら答えてくれた。


「ヴィクトル様は、結婚と同時に臣籍降下される予定だから、マルゴ様が王城でお妃教育を受けることはないわ。そもそも、彼女はそんな教育は意味をなさないほど優秀だと聞くし……彼女も、あと半年のことだと、耐えているのではないかしら」


 なるほど。臣籍降下ということは、ヴィクトル様は公爵におなりになるのか……うん?


「あれ? もしかしてヴィクトル様は、カリス公爵家にお婿さんに行くんですか?」

「いいえ、新たに公爵家を賜ることになるでしょう……カリス公爵はエミリア様に婿をとりたいみたいですから」


 意外にも姉様が情報通になってる。どうも昨日のお茶会で情報収集してきたらしい。ということは第三王子の婚約者候補となってるから、第三王子をお婿さんにしたいんだろうか。


「そういえば、ヴィクトル様は彼女の今の状況をご存じなのでしょうか。さすがにあれは酷いと思うんですけど」

「どうかしら……あの方も、所詮は男の方ですから……マルゴ様もあえてお話にはなってないのではないかしら」


 そういえば、妹をコントロールしとけ、的なこと言ってたな。むむ、なんか第二王子も不安要素? 結婚してからも苦労するんじゃないかと、心配になってきた。


 ふと、国王様と謁見した時に見た、あの腹黒い公爵の口元に浮かんだ、微かな笑みを思い出した。物語などでよくある展開だが、国王や王太子を亡き者にして、第二王子を国王にする、とかいう話。ヴィクトル様はそんな意思はないみたいだけど。まさか、第三王子を婿ではなく、王の座に座らせるとか? 可能性だけであれば、いくらでも出てきそう。

 

 聖女だからと言って、私がこの国に係わる謂れはないのだけれど、頑張っているマルゴ様を見ると、何か出来ないだろうか、と考えてしまう。


「ままならないですなぁ……」

「まぁ、ミーシャったら……お年寄りみたいですわよ?」


 フフフっと笑うジーナ姉様に、癒される私。マルゴ様も、姉様みたいに満たされた笑顔を浮かべることができればいいのに。窓の外を流れていく街の景色を見ながら、私は強く、そう願った。

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