第143話

 王都に来てから一週間が経った。

 ヘリオルド兄様もジーナ姉様も、相変わらずお茶会やら夜会やらで忙しくしていたけれど、私の方は社交に関わらずに、比較的のんびりさせていただいている。いつまでここにいるんだろう、と思ったら、大規模な夜会が近々あるそうで、それに出たら戻ってもいい、というお墨付きを貰っているそうだ。


 その間に、私は兄様たちの許可を貰って、護衛さんを連れて商店のある地区に連れて行ってもらったのは、とても楽しかった。

 若い頃によく海外旅行に行ったけれど、領都ののどかな感じと違って、こちらの街並みがヨーロッパの古いお城のある街並みに似ていて、少し感動した。

 色んなお店をウィンドウショッピングしたり、気になるお店を見つけては中に入ってみたりした。結局、兄様からいただいたお小遣いを使うことなかった。残念ながら、欲しいと思う物はなかったんだもの。

 夕食の時にそんな話をしたら、久しぶりに屋敷に来ていたイザーク兄様が、今度は自分と一緒に出かけようと、言ってくれた。うん、でも、兄様、忙しいよね、と思ったが、嬉しそうな顔をしてたので、あえて言葉にはしなかった。


 そしてありがたいことに、ヘリオルド兄様の恩師だという、すでに学園からは引退された魔術の先生が屋敷に来て、伝達の魔法陣について教えてもらうことも出来た。本来なら学園に通わないと教わることが出来ないそうなのだが、ヘリオルド兄様が無理にお願いして下さったようで、教えに来て下さったのだ。

 なんで学園に行かないと教えてもらえないんだろう、と不思議に思っていたのだが、どうも学園に入学する最低ラインの魔力値というのがあるらしく、それがないと伝達の魔法陣も起動することが出来ないそうだ。一番最初に起動した魔法陣に、魔術師の先生から許可を貰わないと、正式に使用することが出来ないんだとか。まさかの許可制に、びっくり。そして、送受信は魔法陣が使用できる者同士ではないと駄目なんだって。まるで携帯電話みたいだ、と思った。

 私には十分な魔力があるのはわかってたので、先生をお願いしてくれたそうだ。学園に通わせることも考えたそうだけれど、私の中身を知っているだけに、それもどうか、という話になったとか。まぁ、私も今さら、子供だらけの学校に行きたいとは思わなかったからよかった。

 魔法陣の仕組みを教えてもらったけれど、本来の年齢の私だったら絶対に覚えられなかったかもしれない。身体が若返って、脳みそも若返ったからこそ、なのだろう。

 これで連絡手段を手に入れた、と思ったら、使いたくなるのが人情。初めての伝達の魔法陣で、リンドベル領にいるエドワルドお父様に送ってみたら、速攻返事が届いたのには驚いた。


 そして、ついにリンドベル領から屋敷のスタッフの増援が、ワイバーンに乗ってやってきた。馬車での移動だったら、もう少しかかるところ、エドワルドお父様の一存で、ワイバーンに乗せられたのだとか。

 その筆頭が、なぜか、セバスチャンさん。リンドベル領の屋敷は大丈夫なのか、と聞いたら、自分がいなくても回るようにはしてありますから、と涼しい顔。さすがです。


「ご迷惑をおかけしました。私がいる間にビシビシしごかせて頂きます」


 いい笑顔のセバスチャンさんに対して、屋敷のスタッフたちの顔が悲壮感漂うものだったということだけ、伝えておこう。

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