第144話

 今私は、見事に着飾らされて、馬車に揺られている。今までは私の好みの寒色系のドレスを選ばせて貰えていたのだが、今回は屋敷の者たちの総意で『是非に』ということで、ローズレッドの落ち着いた赤をベースに、薄いペールピンクのレースのドレスを着ている。こんな色、普通に着ないよ、と内心思いつつ、皆が嬉しそうな顔をしていたので、言葉にすることは控えた。


 そして隣にはジーナ姉様、向かい側にはヘリオルド兄様とイザーク兄様。みんな、ビシッと決めてて、カッコいい。映画とかに出てきそうな美形の俳優さんたちが、目の前にいるような感じで、感無量。目の保養である。

 私たちは王都で最後の夜会に望むべく、王城へと向かっている。これが終われば、リンドベル領に帰れる。そう思えば、たった数時間のこと、頑張れるに違いない。


「ミーシャ、顔、怖いぞ」


 イザーク兄様が苦笑いしながら、そう指摘する。

 いつもなら、近衛騎士として王子たちの傍に仕えるそうなのだが、今回は私も主役の一人だということで、護衛も兼ねて、私のパートナーとして同行してくれている。


「あ。ごめんなさい。ちょっと気合が入り過ぎたみたい」

「フフフ、ミーシャは夜会は初めてですものね」

「ええ……一番の懸念はダンスですけどね」


 遠い目になるのは仕方がない。一応、夜会の話題が出た時に、ヘリオルド兄様とジーナ姉様が、ダンスを簡単にではあるが教えてくれはした。

 あちらにいた時も、テレビで社交ダンスの番組を見たり、知り合いがダンス教室に通ってたので発表会を見に行ったりと、目にしたことはあったけど、まさか自分がやることになるとは、想像もしていなかった。

 身体が若いお陰で、なんとかステップを覚えることは出来たものの、確実に相手の足を踏む自信はある。実際、何度も踏んだことを覚えている、目の前のヘリオルド兄様も苦笑いを浮かべている。


「大丈夫だ。私とだけ踊っていればいい」

「イザーク兄様」

「……まぁ、イザーク、まさかミーシャを一人占めするつもり?」

「他の者では、ミーシャの相手は務まらないでしょう」

「……それ、すごく私馬鹿にされてます?」


 確かに、足を踏まない自信はないけど。ジロリとイザーク兄様に目を向けると、兄様はあたふたと焦ったように言い訳をしだした。


「そ、そうではない! ミーシャをフォローできるのは私くらいだろう、という意味だ」

「イザーク兄様、ダンスが得意なんですか?」

「う、あ、まぁ、ほどほどには……」

「そうは言うが、お前はあまり夜会にも出ないではないか」


 ヘリオルド兄様が面白そうな顔で、揶揄うように言う。確かに。護衛でいることのほうが多そうだ。それに追随するようにジーナ姉様もクスクス笑っている。


「出られても、女性たちから逃げ回っている姿しか、思い浮かびませんわ」

「……兄様、モテそうですもんね」

「ミーシャ!」


 イザーク兄様の情けない叫び声とほぼ同時に、馬車は王城のロータリーのような所に着いたようだった。

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