第86話

 そしてハリーと呼ばれた人物は、聞くところによると、リンドベル領のお隣、まさに、この砦を管轄しているエンロイド伯爵という人らしい。やっぱりあの服装は、貴族の格好で正しかったようだ。同じ貴族でも、エドワルド様たちみたいな冒険者とは、やっぱり違うんだな、と実感する。


 親し気に話をしてハグをしあう二人。身長差ありなのに、なぜか絵になる。うん、映画にもこんなワンシーンありそうだな。

 そして再び、ハリー様は私の方へと目を向ける。なんだろう? 私、なんかおかしいのかしら? ハリー様はそのままエドワルド様へと、訝し気に声をかける。


「おい、このちっこいのは……」

「おお! よくぞ聞いてくれた! 実は、うちの……」

「父上、ここでは」

「お、おお、そうであったな」


 嬉しそうに話しだそうとしたエドワルド様、イザーク様の冷ややかな声に、言葉が詰まる。うん、私もちょっとここで話す内容じゃないって思うよ。周囲には、多くの人の目がありすぎる。


「なんだ、なんだ……お、おお?! よくよく見れば、アリスに双子もいるではないか。リンドベル家勢ぞろいか、豪華だな」

「ハリー、お久しぶり。ここで止まっていると、他の皆に迷惑でしょう」

「おう、そうであったな。では、儂の屋敷に案内しよう」


 アリス様の言葉に、頬を染めながら応えるハリー様。人妻になっても、男たちを惑わすのね。うーん、罪作りね。アリス様。

 私たちはぞろぞろとハリー様の後をついていく。向かう先は、先程、ハリー様が出てきたお屋敷のようだ。

 エドワルド様とハリー様は、並んで楽しそうに話している。その後ろに立つアリス様も楽し気だ。


 その様子を、同じように門から砦に入ってきた人々が目で追いかける。レヴィエスタの国民以外の者もいるだろうに、その視線はけして嫌なものではなく、どこか尊敬の眼差しで、エドワルド様たちに対する信頼のようなものを感じられる。リンドベルという家が、どれだけ認められているか、というのをまざまざと見せつけられたようで、身内のようで身内でない私も、なんだか、自分のことのように誇らしく感じる。


 ……しかし、どこにでも、不満分子というのはいるというもので。

 いつの間にか悪意に反応して、自動で立ち上るようになってしまったマッピングの画面に、ハリー様たちの後ろに立つ部下の一人が、ほんのり赤くなっているのに気付いてしまった。

 護衛? 剣を下げていないところを見ると、文官なんだろうか。

 ジッとその背中を見つめる。誰に向けての悪意なのかがわからないのって、困ったもんだ。例え、自分たちに向けたモノではないにしても、気を付けておくにこしたことはない。

 私は屋敷に入るまで、その男の背中を見つめ続けた。

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