第124話

 彼女たちが出ていってから、青白い顔をした衛兵さんたちが頭を下げにきた。


「聖女様、申し訳ございませんでした」

「……これが、この王城では普通のことなんですか」


 彼女たちに向けられなかった苛立ちを、彼らに向ける。ヴィクトル様も苦い顔をしている。


「申し訳ございません……エミリア様がすでに話が通ってると申されまして」

「何それ。そんなの口から出まかせでしょうに。簡単に通されては困るんですが」

「聖女様、それは私のほうからご説明を」


 ヴィクトル様が大きくため息をつきながら、話し始める。

 どうもカリス公爵という家は、先々代の国王の弟が臣籍降下した家らしく、また、権力も王族に次ぐものらしい。その次女であるお馬鹿さんに、声高に言われれば、衛兵も強く言えない。それも、止める間もなく、勢いよくドアを開けていかれてしまえば、身分のある女性に手を触れる訳にもいかず、一人が慌てて上の者へと報告に行ったということらしい。


「マルゴも強く言えばいいものを」


 ヴィクトル様が苦々しく言うけどさ。

 長女のマルゴ様は今は亡き正妻の娘で、お馬鹿さんは後妻さんの娘らしい。

 そ・れ・も! 公爵がもともと後妻になった人と浮気してて、そこで出来た娘なんだそうな。正妻が亡くなったからって、後妻と娘を引き取ったとか。

 後妻も、どうも平民だったみたいで、世にいう玉の輿というのか、平民の憧れみたいな話になってるらしく、いわゆるシンデレラ・ガール(もうガールなんていう年でもないだろうけど)なわけだ。その娘、ってだけでもヒロイン扱いされて当然、ってなっちゃってるんだろうなぁ。

 うわぁ、メンドクサイ。絶対、彼女の中で、私、悪役扱いになってそうだわ。


 そんな話を聞いたらさ、絶対、マルゴ様が苦労してそうなのが目に見えるんですけど。これ、ヴィクトル様、叱るんじゃなくて、彼女を支えてあげなきゃいけないパターンなんじゃないの?

 もうね、あっちの世界の常識があるからか、こういうのってイラっとくるのよね。普通にお妾さんとか、第二夫人とかある世界なのはわかってるけどさ。

 幸せそうなリンドベル家を見てるせいもあってか、許せない気持ちの方が強くなる。

 ついつい、おばちゃんはヴィクトル様に苦言を呈してしまうのよね。


「あれは、公爵が甘やかしてる結果でしょう。それをマルゴ様一人に押し付けるのは、いかがなものかと」

「……そうだろうか」

「ええ。話を聞くに、マルゴ様の味方になるような方って、いらっしゃらないみたいじゃないですか。妹も姉の言うことは聞かないし、そもそもが、人の注意もまともに聞いてないじゃないですか。ここは、ヴィクトル様がマルゴ様を労わってさしあげるべきじゃないかと」

「聖女様……」


 私の若干棘のある言い方に、ちょっと感じることがあったのか、ヴィクトル様は口をつぐんでしまった。

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