第123話

 また衛兵さん、仕事放棄? と思ってジロリと視線を向けると。


「ヴィクトル様!」


 現れた第二王子に、イザーク様が勢いよく立ち上る。私もつられて立ち上り、カーテシーで挨拶をする。


「ああ、お気になさらず、座ってください」


 従者を連れて現れたヴィクトル様は、押しとどめるように片手を上げる。さすが王子様っていうオーラをまとってる。キラキラしてるなぁ。


「マルゴ、君がなぜこの部屋にいるんだい」

「も、申し訳ございません……」


 冷ややかな王子の声に、マルゴ様は顔を青ざめる。さっきまで高飛車だったお馬鹿さんも、さすがに具合が悪そう。


「この部屋は、イザークと聖女様に使っていただいてるはずなんだが。衛兵、これはどういうことだ」


 開かれたドアの所に立っていた二人の衛兵さん、うん、こっちも顔が真っ青ね。


「はっ! 申し訳ございません! エミリア様が止める間もなく入ってしまわれて……」

「入ったとしても、すぐに追い出すことも出来ただろう」

「……申し訳ございません」

「はぁ……マルゴ、君はもう少し妹殿を制御できるようにしてもらわないと困るな。妹殿もリシャールの婚約者候補とも言われているだろうに。その自覚があるのかね」


 へぇ……第三王子のねぇ。ヴィクトル様の言葉に、薄っすらと涙を浮かべているマルゴ様。いつも妹に振り回されてるんだろう。お気の毒、と思っていたら、お馬鹿さんは、顔を真っ赤にして、こともあろうにヴィクトル様に反論しだした。


「姉様は関係ありません! そもそも、そこの女がイザーク様とイチャイチャしてるのが悪いんです!」


 ええぇぇ……これのどこがイチャイチャなの? 単に隣に座って、お茶飲んでるだけなのに。それ以前に、いきなり入ってきた理由にならないよね。

 彼女の言い訳を聞いたヴィクトル様は、お馬鹿さんではなく、イザーク様を見て驚いた顔をしたかと思ったら、ニヤニヤとしだした。


「ほほぉ……イザーク、お前、聖女様が好みだったのか」

「ヴィ、ヴィクトル様! なんてことを!」


 珍しく慌てる兄様。ちょっと耳が赤くなってる様子が、ちょっと可愛い。


「ヴィクトル様、揶揄わないでくださいませ。イザーク兄様も困っております」

「なんと、聖女様は、イザークを『兄様』とお呼びですか」

「ええ、リンドベル家の皆様が、家族と思ってそう呼ぶようにと、仰ってくださったので」

「へぇ……イザーク、よかったな」

「ヴィクトル様……」


 なんか意味深に笑いながら言うヴィクトル様の言葉に、困った顔になるイザーク兄様。それに目をハートにしてるメイドさんたちとは逆に、お馬鹿さんは涙を浮かべて、小さく呟く。


「酷い……酷いわ、イザーク様」


 何が酷いのかわかんないけど、お馬鹿さんは私を睨みつけて、部屋から出て行った。何、悪者は私? なんか納得がいかないんだけど。


「……ヴィクトル様、私も失礼いたします」

「ああ、悪いが見送りはしないよ」

「……はい」


 マルゴ様は目を伏せながら軽く会釈をして、部屋を出ていく。お馬鹿さんを追いかけるのだろうか。気苦労の絶えない彼女が、気の毒でしょうがなかった。

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