第122話
マルゴ様とエミリア様、なぜか目の前のソファに二人並んで座って紅茶を飲んでいる。落ち着いて飲んでいる姿に、苛々が止まらない。それでもなんとか、感情を殺して問いかける。おばちゃん、中身は大人だからね。
「お二人とも、ご用件は」
「……ねぇ、イザーク様、今度、我が家のお茶会にいらしてくださいませ」
私の質問を完全無視して、身を乗り出すようして兄様に話しかけるエミリア様。マルゴ様が再び、「はしたない」と注意するけど、それも無視。
うわー、もう、怒ってもいいかな。
「申し訳ございません、帰国したばかりでして、仕事が立て込んでおりまして」
作り笑いって丸わかりな笑顔を貼り付けたイザーク兄様に、兄様も耐えてるんだと思い、グッと堪える。
そんなことも理解しないのか、エミリア様はイザーク兄様から視線を離さない。
「そんなもの、他の誰かに振ってしまえばいいのよ」
「エミリア、イザーク様もお忙しいのよ……それよりも、聖女様はいかがでしょう」
「は?」
「我が家のお茶会では、王都でも有名な菓子店から、特別に人気の菓子を取り寄せているので、人気なんですのよ」
「姉様!」
これは、お茶会のお誘いのために来たって理解でいいのかしら。それでエミリア様玉砕が目に見えてるから、代わりに私ってこと? それもそれで失礼な話だ。
だいたい、お貴族様ばっかりのお茶会なんて、何が起きるかわかったもんじゃない。王都のお菓子なるものは気にはなるものの、さっきのスコーンみたいなのを食べてしまうと、この世界のお菓子のレベルも、想像できてしまう。
それに、私自身のマナーだって……ねぇ?
「……申し訳ございませんが、すぐにでもリンドベル領に戻る予定でして」
「まぁ、あちらで何か御用でも」
「そうですね」
にっこり笑って、少し冷えてしまった紅茶に口をつける。何もないけど、そういうことにしておく。それ以上詳しいことを聞いてこないだけ、まだマルゴ様は空気が読めるみたい。
「まぁ、我が家のお茶会の誘いを断るだなんて、なんて図々しい……」
それなのに、忌々しそうに言うエミリア様(もう、『様』もとってもいい?)。マルゴ様は視線で窘めてるけど、効きやしない。
「そもそも、聖女っていうのだって、本当のことだか」
「エミリア!」
「だって、そうでしょう? 光魔法なら、私だって使えるわ! だったら私だって『聖女』と呼ばれたっておかしくないじゃない!」
え? このお馬鹿さん(名前も呼びたくなくなった)が、光魔法が使える? というか、光魔法使える人って、教会関係者だったらいくらでもいるんじゃない? そもそも、私は光魔法を使ってなどいないんだけど、彼女は誰からそんな変な話を聞いてるんだろう。
「そういう問題ではないのだがな」
ドアの方から、新たに若い男性の困ったような声が聞こえた。
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