第121話
満面の笑顔で駆け寄る彼女の姿は、まるでアニメか何かのヒロイン。花をまき散らしながら走ってる……ように見えたけど。
「ぐえっ」
「……はしたない真似はやめなさい。エミリア」
彼女の襟首を、いつの間にか現れた、少し年上の女性がひっつかんだ。
うわぁ……あれはキツイわ。
ゲホゲホと女子としては若干恥ずかしい、腰を曲げたまま咳き込んでいる姿に、少しだけ同情する。
後から現れた女性は、静々と兄様のそばにくると、ドレスをつまんで優雅に挨拶をした。美しいカテーシーに目をみはる。真っピンクのに対して、ネイビーに白いレースが綺麗なドレス。黒に近い濃い茶色い髪にスカイブルーの瞳が印象的な女性だった。
「ご無沙汰しております。イザーク様」
「……これは、マルゴ様……お久しぶりでございます」
兄様は少しホッとした顔で挨拶を返す。
「申し訳ございません、妹が大変失礼なことを……こちらが『聖女』様でしょうか」
スコーンを口にしたまま固まってた私に、マルゴ様と呼ばれた女性が、口元に笑みを浮かべながら私の方へ顔を向けた。
妹と言われたエミリア様が可愛らしいタイプなら、マルゴ様はクールビューティーって感じだろうか。言い方は悪いけど、お馬鹿な妹の世話をやく、出来た姉、といったところか。
それにしても、あんまり似ていない姉妹だなぁ、と、ちょっと思った。
「はい、ミーシャ」
「んぐっ、むぐ、あ、はい」
慌てて口の中のスコーンを飲み込み、残りを皿に戻して立上る。
「ミーシャ、こちらはカリス公爵家のご長女のマルゴ様と、妹のエミリア様。マルゴ様は第二王子の婚約者でもいらっしゃる」
「ミーシャでございます」
私も見様見まねでカテーシーをする。上手く出来たかはわかんないけど。
そういえば、カリス公爵って言ってたけど、あの絶対黒のデブか……二人とも、全然、似てないなぁ! なんてことを考えつつ、顔を上げた時、ピコーン。地図発動。私のすぐそばで真っ赤な点が煌々と光ってるよ。その位置はまさかの、エミリア様。
チラリと彼女の方を見ると、私を怖い目で見てる。えー、なんで?
「エミリア、ご挨拶なさい」
「……ふんっ、姉様、こんなわけのわかんない女に、なぜ私が挨拶する必要がございますの」
「エミリア!……聖女様、申し訳ございません」
慌てて頭を下げるマルゴ様。そんな姉の様子など気にもせずに、エミリア様は再び兄様の傍に足早に寄ろうとする。ちょっと、イラっとするよねぇ。私でもさ。だから、ちょっと意地悪をしてみる。
「兄様」
「なんだい、ミーシャ」
エミリア様をスルーして、私の傍にくる笑顔の兄様。エミリア様、思い切り通過してく。うん、兄様、グッジョブ。
「イザーク様っ! つれないところも素敵っ!」
……ねぇ、この子、本当に公爵令嬢?
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