第120話

 さっさとこんな物騒なお城から立ち去りたかったけど、まだ肝心の外交官と話もしてない。そもそも、その外交官とやらは、どこにいるんだか。

 とりあえず、私の聖女としての力は認められたということで、私とイザーク兄様は、まだ落ち着かない広間を後にして、別のお部屋で待たされている。


 イザーク兄様に、さっきはなんで聖女の証拠を求められることを教えてくれなかったのか、文句を言ったら、兄様たちも聞いていなかったとのこと。だったら、なんで反論とかしてくれなかった、となるよね? どうも、私は気付かなかったんだけど、国王様から黙ってろっていう指示があの場でされてた模様。何それ。野球みたいなサインかなんかがあったのだろうか?


 今回の事件については、これから調査が入るらしい。あの男の子の身辺調査から始まるのかもしれないけど、どれだけ真相に近づけるのだろう。絶対、あの公爵が裏にいるに違いない。私の第六感がそう言ってる。具体的な証拠とかが、みつかればいいんだけど。

 ところで、王族の傍にあった赤い点の三つのうち、二つは気付いた(公爵と宰相の部下っぽい人)けど、残りの一つの赤い点がわからなかった。こういうの見落とすと、後々響いたりしそうで、少しだけ不安だ。


 ヘリオルド兄様は辺境伯ということもあって、まだあの場に残ってる。イザーク兄様も近衛騎士で、その上、副団長のはずなんだけど、私の護衛も兼ねて一緒にいてくれるらしい。近衛の仕事、しなくてもいいんだろうか。


 待っている間、私たちは美味しい紅茶を頂いている。一緒にスコーンっぽいのが置かれてたので、ハムッと食べてみた。うん、ポロポロしてて、口の中の水分持ってかれるね。飲み物がないと、ダメなやつだわ。

 部屋の中には私とイザーク兄様以外には、ハートの目をして兄様を見つめてるメイドさんたち。まぁ、わかるけどね。イケメンだもの。

 いつまで待ってないといけないんだろう? と思ってるところに、ノックもなく勢いよくドアが開いた。


「イザーク様! お帰りになったって聞いたわっ!」


 おおっと。誰ですか、この女の子は。

 年齢的に言えば十四、五歳くらい。あの第三王子と同い年くらいだろうか。ピンクブロンドのクルクルとカールした長い髪を両サイドに二つにしばってる姿は、髪の色を違わせた、昔見たアニメのキャラクターに似ている。残念ながらそばかすはないようだけど。

 真ッピンクのドレスが、わさわさと揺らしながらの登場に、私はスコーンを口にしたまま、固まってしまったよ。


「……エミリア様」


 兄様はドアが開くと同時に立上り、腰に下げてた剣を抜く体勢を取ったけど、相手が女の子とわかったせいか、すぐに姿勢を正した。そして、困ったような顔で彼女の名前を呼んだ。

 ドアのところに衛兵さんがいたはずなのに、勝手に入ってきている様子だと、王族の関係者なのだろうか。そうだったとしても、あまりの警備の甘さに、眉間に皺がよる。それにノックもせずに入ってくるって、この世界のマナーとしても、どうなのよ。壁際にいたメイドさんたち、顔、怖くなってるよ。

 それでもエミリアと呼ばれた女の子は、周囲の厳しい視線をものともせず、笑顔で兄様に駆け寄り、抱きつこうとした。

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