第114話
ドアが開くと中の騒めきが聞こえてくる。防音効果、すごいな、このドア、なんて感心していると、徐々にその騒めきがおさまっていく。そして視線は我々に。視線に攻撃力はないはずなのに、チクチクするのは、なんでかね?
大きな広間の中を、イザーク兄様たちの後をゆっくりとついて行きながら、私はベールの下から、顔を動かさずに周囲を窺う。チクチクの大本らしき集団は、案の定、あの赤い点々集団。広間の右側、中ほどくらいに固まっている。詳しい政治的なことは聞いていなくても、あの辺が反対勢力みたいなもんなんだろう。
その集団とは逆側、左手の前の方、たぶん、偉い人たちがいそうなところにも、三か所の赤い点発見。正確には薄い赤が二つに、濃い赤が一つ。正面の高いところにいるのは王族の方々っぽいから、大臣とか、そういう人たちなんだろうか? めんどくさいなぁ、と考えているうちに、前を歩いていた兄様たちが立ち止まる。二人が膝を落とし、頭を下げた。私も彼らに倣い、膝を落とす。
「イザーク・リンドベル、国王様のご命令に従い、我が兄、リンドベル辺境伯、及び、聖女、ミーシャとともに帰参いたしました」
「……よく戻った」
国王様は、イザーク兄様に褒めるように言うと、今度は私の方に目を向けてきた。
ベール越しに見える姿は、立派な体躯にモジャモジャの長い茶色い髪。百獣の王ライオン、そんな感じ? よく洋画で描かれるような王様そのもの、とでも言うべき?
その隣に座る、金髪を綺麗にまとめてティアラをしている美女が王妃様だろう。彼女の興味津々な視線は、子供のよう。
その彼らのそばに並んで立ってるのは子供達だろうか。王子が三人に、王女が一人。
一応、事前に聞いていたのは、第一王子がイザーク兄様より一つ年上で、第二王子がパメラ姉様とニコラス兄様と同い年で二十歳、次が第一王女が十八歳、末っ子の第三王子が十五歳だったか。レヴィエスタ王室は一夫一婦制だったはずだから、王妃様は四人も産んでるわけだ。それであの美貌、尊敬だわ。
「……して、聖女殿とは」
えー、いきなり私ですかい。どう挨拶したらいいものか、迷いつつ、ゆっくりと立上り、ベールをとらずにペコリと頭を下げる。ベール越しでも、国王様からの視線もなんか痛いぞ。
「お初にお目にかかります。ただいまご紹介いただきました、ミーシャでございます」
「……ベールを取って見せよ」
王族の次に高いところに立っていた男性が、偉そうに言ってきた。たぶん、宰相様ってやつだろうか。ほっそりとした白髪の片眼鏡……モノクルっていうんだったっけ……をした男の人。切れ者って感じがする。彼自身は悪意はなさそうだけど、その後ろに控えている若い男が薄い赤。疑ってる、というところなんだろうか。
二人とも、この場で鑑定してみてもいいけど、イザーク兄様たちみたいに鑑定を防ぐアイテムみたいな物を持っている可能性もありそうだから、諦めた。
「……はい」
仕方なく、言われるがまま、私はベールを取る。
「ほぉ」
「ずいぶんと若いな」
「子供じゃないか」
ぼそぼそと、あちこちで話し声が聞こえてくる。若い? 子供? ありがとう。こう見えて、中身はおばちゃんだけどね。
「ミーシャと言ったか。その方が聖女だという証拠はあるのか?」
そんな騒めきを抑え込むように、白髪の宰相が、冷ややかな目で私の方を見て、そう言った。
……あっれぇ?
今、それ言う? イザーク兄様が説明したって話だったけど、その時に納得できなかったのかしら。
宰相の視線とその言いように、私はちょっとだけ、イラっとした。
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