第13章 おばちゃん、『悪役令嬢』モドキになる

第113話

 転移陣で王都の屋敷に飛んでからは、目が回るようなスピードで、あちこちに連れまわされ、気が付けば王城内の謁見の間のドアの前に立っている。


 せっかくお気に入りだった紺色のワンピースはひん剥かれ、どうやって準備したのか、パメラ姉様のお古ではない、細かい白いレースの飾りの美しい、ミントグリーンの可愛らしいドレスを着ておりますよ。短いストレートの黒髪も、どうやったのか編み込みされて、項が露わになっている。これなら髪の毛切らなくてもいいかなって思うけど、そもそも編み込み自体が難しいのよ!

 そして……まるで、花嫁さんのウエディングドレスについてきそうな薄手のベールをかぶってるのだ。薄手、といっても、あちらの世界のものほど透けるようなタイプじゃない。薄っすらと横顔の輪郭が見えるかな、っていう程度。そして、薄化粧をされた顔を見て、ちょっと久しぶりに女の子の顔してるなって思った。


 私の前には、イザーク兄様、ヘリオルド兄様が並んで立っている。ジーナ姉様はまだ病み上がりだし、こんなストレス過多になりそうなところになんて連れてくるわけにはいかない。


「なんだって、こんなに悪意がいっぱいなんだろうねぇ……」


 ……そうなのだ。王城に入った途端に、地図情報が自動で開いて悪意感知しまくり。けして、全員が全員、というわけではない。むしろ大半は青っぽい感じの点。ただ、私たちが進もうとすると、赤い点々がふよふよと吸い寄せられてくるのよ。なんか、昔見た、テレビゲームの画面とかで敵とかが動いてるのが見えるのに似ているかも。

 まぁ、きっと、私たちが来たという情報に釣られて、悪意のある人たちが引き寄せられてるのかもしれない。それだけ、リンドベルという家が力があるのかもしれない、と、ちょっと思う。政治的なモノ以外にも、美男子の二人への嫉妬みたいなのもあるかもしれないけど。

 そして、まだ開かないドアの先、謁見の間では三分の一くらいが赤い点。これは動かずに派閥みたいなので固まってるのかもしれない。それにしても、これ、国に対してではなく、私やリンドベルの家に対する悪意で、まだよかったのかもしれない。そうじゃなきゃ……この国、やばすぎるもん。

 それでも、つい、ため息は出てしまう。


「ミーシャ?」

「あ、いえ、なんでもありません」

「……」


 イザーク兄様の心配そうな声に、ベールをあげずに、頭を振って返事をする。

 まぁ、ここまで来たら腹を括るしかないでしょう。何があっても、私がリンドベル家を守ってみせようじゃないの。私は両手を握りしめ、密かに気合をいれた。


「リンドベル辺境伯爵殿、近衛騎士団所属、イザーク・リンドベル殿、並びに『聖女』殿」

「はっ」

「はっ」

「……はい」


 二人の名前とともに『聖女』殿、と呼ばれた私。重そうなドアが、音もなくゆっくりと開いていく。

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