第106話

 ドアを開けたら、そこには慌てて来たのがまるわかり、額にキラリと汗を光らせたイザーク様と、その後ろに肩で息をしているセバスチャンさんがいた。

 イザーク様は、一緒に旅してた時とは違って、裏地がワインレッドの真っ白なマントに、窓からの光に反射する白い鎧を着ている。まさに、騎士様! ちょっと、カッコよすぎない?!


「あ、あれ? 王都に行ってらっしゃるんじゃ?」

「う、うむ。ちょっとな。げ、元気そうならいい」


 嬉しそうに私の頭をなでなですると、すぐに背を向け、颯爽と去ってった。

 セバスチャンさんは一瞬呆れた顔をしたけれど、すぐにいつもの冷静な顔で頭を下げて、イザーク様の後を追いかけていく。私はあっけにとられて二人の背中を見送る。


「何、あれ」

「うふふ、ねぇ?」

「あらあら……まさか」


 背後ではアリス様たちは何やら盛り上がっているが、私は、はてなマークをいくつも浮かべながら頭を傾げる。


「何しに来たんですかね?」

「もしかして、もう、王都からお呼びがかかったのかしら」

「え、えぇぇぇっ!?」


 さすがにそれは、早すぎない?

 いや、それだけ、聖女案件って大事おおごとになっちゃってるのかしら。

 私たちは、一旦、刺繍を置いて、部屋を出た。すると廊下の反対側からオズワルドさんとカークさんの姿が見えた。その奥、尖塔の一つに転移陣が置かれているので、きっと、そこから彼らも現れたのだろう。


「お二人もいらしたんですか」

「おや、ミーシャ様。アリス様たちもご一緒で……ああ、もしかして、すでにイザーク様が行かれましたか」

「ふふふ、もう、あの子もいい年して落ち着きがないというか」


 アリス様の言葉に、皆も小さく笑ってる。


「オズワルド、王都で何かありましたか」

「はい、アリス様……国王様が、聖女様をお連れしろとのことで」

「……まぁ、そうなるわよねぇ」


 ふぅ、とため息をつきながら、頬に手をあてている姿は、私なんかよりもよっぽど聖女っぽい気がするんだけど。


「イザーク様は、国王様からのヘリオルド様あての手紙を届けにいらしたのです。そちらに、ミーシャ様のことが書かれているかと」


 申し訳なさそうにいうオズワルド様。うん、ジーナ様、もう泣きそうな顔しちゃってるもんね。

 普通に手紙を運ぶとかだったら、王都からここまでは一カ月くらいかかるものらしいけど、転移陣で届けられたら、そりゃ、すぐに届いちゃうわな。

 でもさぁ、もうちょっと情緒というか、気を遣えよ、って思うんだけど。イザーク様なのか国王様なのか、どっちが空気読めないのかはわからないけど!

 私はジーナ様の傍らによると、ギュッと抱きしめる。ジーナ様もそれに反応するように抱きしめ返してきた。その手は、少しだけ震えていた。

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