第107話

 残念ながら、オズワルドさんの言葉通りに、国王様からのお呼びだしだった模様。

 ヘリオルド様も困ったような顔で執務室から出てきた。その後ろに立っているイザーク様は、何やら口元がもにょもにょしてるけど……どうしたんだろう。


「ミーシャ……もう、知ってしまったのか」

「貴方……」


 ヘリオルド様に駆け寄るジーナ様に、私も彼女の後をついていく。


「ヘリオルド様、国王様からはなんと?」

「うむ……聖女様が無事に我が国に入られたことを、国内外に広めねばならないとの仰せだ。一つの国で聖女様を隠し持ってはならないというのが、今まで各国での共通認識だった。それを、そもそも、シャトルワースが破ったのだ。我が国が同じことをやるわけにはいかない」


 重々しく言うヘリオルド様に、ジーナ様は唇を噛みしめてる。


「……内緒にしちゃ、ダメなんですか?」

「シャトルワース側では、すでにイザークが聖女を連れていた話が出ているらしい。シャトルワースからオムダルへ向けて国境を越えた時のことかもしれんな。このままだと、シャトルワースは自分の国を棚に上げて、我が国を矢面にするつもりかもしれない」


 なんですと!

 自分達がやらかしたことを人様になすりつけるとか、ダメでしょ。というか、イザーク様を悪役にするとか、ありえない!

 ……正直、あんまり目立つのは嫌だ。

 だけどこのままじゃ、私のために、リンドベル家自体が責められることもありえるってことでしょ。そんなの、許せるわけない。

 ……腹をくくらないとダメよね。


「……行かないわけには、いきませんね」

「ミーシャ」

「パメラ様、大丈夫……ですよね。イザーク様」

「ああ。私が必ず、ミーシャを守る」


 真剣な顔で頷くイザーク様。もにょもにょは治まった模様。


「あの、転移陣って、気軽に使えるものなんですか? 帰りたくなったら簡単に帰ることができるとか」

「……転移陣は、基本は緊急時のみ使用できることになっている。イザークが急いで王都に戻るのは許されても、我々が社交のために王都とを往復する時は利用しないのだよ」


 むぅ。簡単には使っちゃダメなのね。だったら。


「私が勝手に転移する分には構いませんよね」

「……ん? 転移!?」

「え、ミーシャ、そんなことができるのっ!?」

「うん。今までは使ったことないけど。一度行ったことがあれば、転移することが出来るはずなのよね」


 今までは逃げる一方で、戻りたいって思うような場所がなかったから、マーカーの登録をしてこなかった。今は、この屋敷についてすぐに、自分の部屋にマーカーをつけてある。これだったらいつだって、この屋敷に戻って来れるはず。

 王都に行っても、すぐに帰ってこれるのだ。


「それなら、毎日でも、戻って来れるしね」

「いや、しかし、そのために消費する魔力は相当なものになるんじゃないか?」


 気楽に言う私に対して、不安そうに聞いてきたのはヘリオルド様。

 あー、今まで使ったことないから、どれくらい魔力が使われるか、考えたこともなかったわ。そもそも他の魔法を使っても、魔力の消費具合とか気にしたことなかったわ。

 距離で使用する魔力とかが変わったりするんだろうか。一度、テストしてみたほうがいいかもしれない。


「イザーク様、王都に向かうのはいつまでに、とかあるんですか」

「早ければ早いほどいい。王自体、すぐにでも連れてこい、という勢いではあった」

「……えぇぇ」


 王様だけに俺様ってヤツなのかしら。

 なんか、その話を聞いただけで、悪い予感しかしないんですけど。

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