悪い人は、嫌なくらい、意外にしぶとい(1)
ハロイ教の教祖、ナリアード・ドロルドは、多くの貴族たちと共に、オムダル王国の国王の崩御の立ち合いの場にいた。ハロイ教の『聖女』であり、王太子の婚約者であるアイリス・ドッズも、神妙な面持ちで王太子の隣に立っている。
ドロルドはチラリと同じ並びにいる、ロンダリウス侯爵へと目を向ける。国王の右腕、とも言われていた男だったが、娘の『病気』を理由に、仕事を辞していた。それでも国王が危篤となれば、傍に仕えるだけの想いがあるのだろう。
その『病気』も、王太子の婚約者になるためにアイリス・ドッズが呪った結果であるのだが、まだ、それに気付く者はいない。しかし、いつまでも死なないことに、アイリスの侯爵令嬢に対する呪いの覚悟のなさが浮き彫りになっている。
再び、病床にある国王の方へと目を向ける。国王の呼吸は浅く、いつ息を引き取るか、という状況。それを作り出しているのが……黒い影。他の誰にも見えないが、宿主ともいえるドロルドにはありありとその姿が見える。ベッドの天蓋付近に黒々とした影が浮かび、その影の手が国王の首を締め上げている。
――早く、死んでしまえ。
次期国王は今の王太子。その妻となるのが、ハロイ教の『聖女』。その『聖女』も、ドロルドの掌の上。トーラス帝国やレヴィエスタ王国では成し遂げられなかったが、ここ、オムダル王国では、ここまで来れたのだ。
――もう一捻りで終わり。
そう思った瞬間。部屋の中を真っ白な光でいっぱいになり、目が眩むと、同時に。
『GYAAAAAAAAA!』
大きな叫び声に耳を塞ぐ。
しばらくは目が見えない状況に、室内にいる者たちが慌てふためく。ドロルドもその一人であったが、しばらくすれば、再び周りが見えてきた。
「なんだと……」
先ほどまで国王にまとわりついていたはずの黒い影が消え去っていた。そして国王の傍に医師たちが集まっている。仕留め損ねた。国王は何かを医師たちに話しているようだ。
「あれは……浄化の光かっ」
ギリリッと歯を食いしばるドロルド。影の残骸ともいえる埃のようなモノが、ドロルドの足元にまとわりついている。
「聖女か、本物の聖女……あの小娘かっ」
そう呟いた時。
「きゃぁぁぁぁぁ……あああああっ」
王太子の隣に立っていたアイリスの甲高い叫び声があがる。
「な、なんだこれはっ!」
「殿下っ、離れてくださいっ!」
見る見るうちにアイリスの姿が、枯れ木に変わっていく。
「あああ……た、助け……て……」
アイリスの言葉は、それが最後となった。
そして。
「ああああっ!? な、なぜ、私にもっ!?」
ドロルドの右手が、枯れ木に変わっていく。
同時に、艶々とした肌が、一気に皺に変わり、老人のような姿になり果ててしまった。
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