第115話
私はチラッと前で膝をついたままの兄様たちを見たけれど、兄様たちは何の反応もしてこない。もしかして、二人にはすでに聞いてた話? だったら、先に言っといてくれてもいいんじゃない?
……それにしても、証拠って言われても、と私も困る。
「イザークの話を信用しないわけではないが、多くの者がそうではないのでな」
国王様、若干、申し訳なさそう。特にあの赤い点々がそうなのかもしれない。
「……聖女の証拠とは、どんなものを指すのでしょうか」
「そうだな」
そう言って考え込んだ国王様。その様子を見つめていて、気が付いた。
あらら……まさかの、国王様にも黒っぽい埃が右肩あたりに纏わりついているように見える。だったら。
「では、『浄化』してみせれば、よろしいですか」
「ほぉ、『浄化』か。そういえば聖女の力といえば『浄化』であったな」
ジッと右肩を見ると、うにょうにょ蠢いてる。国王様、全然平気な顔してるけど、大丈夫なんだろうか。それとも、呪いよりも国王様のほうがパワフルすぎて、呪いのほうが負けてるっぽいのか。
それにしても、あれ、周囲の人、誰も気付いていないのかしら。
格好からして、教会関係者っぽいのが右の奥の方にいらっしゃるみたいだけど、あそこからじゃ、わかんないのかな。
ディスペルという魔法で見せると、ただの魔法使いと変わらない。しかし、浄化ってスキル、どうやって使って見せればいいかな。その時、思いついた。見える人を、証人に出来ないかなと。
「あの、あちらの方々は教会の方達ですか」
「ああ、そうだ」
「呼んでいただいても?」
「エンディメン枢機卿」
「はっ」
教会関係者の中から老人が一人、するすると進み出てきた。柔和な笑みを浮かべているけど、目は厳しい感じ。彼は私の隣に並ぶと、国王様に向かって頭を下げる。少し小柄なその人は、顔を上げた時、一瞬、瞳が揺れた。
……気付いたかな。
「……枢機卿様」
「はい、聖女様」
「気付かれましたか」
「はっ」
「あれ、他に見える方は?」
「……しばし、お待ちを」
私の意図に気付いたのか、厳しい顔つきで、再び、教会関係者の方へと戻っていく枢機卿様。
「どうしたのだ」
訝しそうなのは宰相。彼には見えないのか。このリアクション的には、これ、仕掛けたのは彼ではないのかな。
「少しお待ちください」
そう言っているうちに、枢機卿が二人の部下らしき人たちを連れてきた。年齢的には四十代くらいと、まだ二十代くらいの男性が二人。
「お待たせいたしました」
「……お呼びと言うことですが」
「……」
二人は私に向かって頭を下げ、そして国王様へと向かい、頭を下げようとしたが。
「あ、あれは」
「枢機卿様!?」
うん、二人には見えているんだね。顔が青ざめてる。
「先程から、なんなのだ」
ついに苛立たしそうな声をあげたのは、国王様ではなく、宰相。それに答えたのは、私……ではなく、枢機卿。
「失礼ながら、国王様。貴方様に呪いの影が見えまする」
深々と頭を下げて、厳かにそう伝えた。
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