第26話

 カーン、カーン、カーンッ、と曇り空に鐘が響く。

 町の中央の広場にある時の鐘の音に、私以外の乗客も馬車の周りに集まってくる。


 みんな真面目に集まって、偉いわ~、などと心の中で、感心しながら、乗合馬車へと乗り込んでいく。この町で降りる人はいなかったみたいで、王都で乗り込んできた人たちと、同じ顔ぶれだった。それはそれで、ちょっと安心する。


 バッグ無しの状態を反省し、昨日のうちに雑貨屋で大き目のバッグを買い込んだ。

 肩掛けできるバッグはマントの中で下げる。昨夜のうちに、アイテムボックスから食料品の一部だけ取り出して、バッグの中に移動させた。

 それ以外にも木製の食器、ハンカチ、下着など、この町で手に入れられそうな物は買った気がする。さすがにブラジャーはなかった(といっても、悲しいかな、それを必要とする胸の大きさではないことを付け加えておく)。

 それに護身用にと、小型のナイフも買った。こんな小さな町の武器屋さんだけに、一通り鑑定してみたけど、たいしたものはなかった。それでも、何も持っていないよりはマシだと思う。

 お財布の中身は……なぜか減っていない。まさかと思うけど、アルム様、お小遣い、補充してくれてたりして。そうだったら、ありがたいけど、安易に使い過ぎないように気を付けなくちゃ。


 結局、昨夜は宿の食事はとらなかった。だって、宿代には含まれてないっていうんだもの。

 いい匂いが漂ってきたのが、余計に腹が立った。

 口惜しいから、アイテムボックスにいれてあったパンに、バターとハチミツをたっぷり塗って食べてしまった。その上、分厚く切ったベーコンをナイフに刺して、火魔法であぶって食べるっていう、今までの人生ではやったことのないワイルドな食べ方をしてみた。さすが王城で扱うベーコン。旨かった。


 アイテムボックスに入ってた食料品を食べたり、袋を入れ替えたりなどの整理して、空の麻袋を何枚か用意できた。それをクッション代わりに、うまくお尻の下に敷いて安定させることができた。うん、悪くない。


 馬車が動き出してからは、ひたすらナビゲーションを見続けてた。

 魔法のことだったり、これからの経路のことだったりを調べてたら、時々、ブツブツ独り言を言ってしまってたみたい。傍から見たら変な子に見えていたようだ。

 そのせいか、誰も近寄ってはこないし、話しかけても来ない。正直、今は誰にも相手にされたくない。


 まずは、この国から出ることが先決だもの。

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