第293話
ゴンドーの『殿下』というセリフで、ヘリウスのことが誰なのかわかったのか、怒鳴った冒険者はそそくさとどこかに逃げていった。この辺ではやっぱり有名人なのだろう。
しかし、先ほどのエルフは言葉がわからないのか、ゴンドーに問いかけている。
『ゴンドー殿、奴らは何なのだ。お主と知り合いのようだが』
『ただの通りすがりですよ。相手にする必要もございません』
あの質の悪そうなゴンドーがエルフの言葉をしゃべっていて、再び、ビックリ。それも、かなり丁寧に話している。実力というのは、この手のも含まれるのか? うちの双子もエルフの言葉がわかるんだろうか、と思ってチラッと目を向けるけど、視線はゴンドーたちに向いていて、私の方に気付いていない。
『そうなの……か!?』
話している途中のエルフの一人とバチッと目が合った。今まで、双子やヘリウスにしか目がいってなかったのか、足元の私やイスタくんには気付いていなかったみたい。
『こんな小さな子供まで、ダンジョンに入ってくるものなのか!?』
エルフが私の方を指差して、ゴンドーに詰め寄った。いやぁ、そんなに子供じゃないんだけどなぁ。
ゴンドーはそんなエルフを煩そうに見ながらも、丁寧に応えている。偉そうなゴンドーでも、気を遣う相手ということなのだろう。ヘリウスがAランクの冒険者であることと、同行者も同等の者だろう、そしてチビどもは荷物持ちだろうと。ゴンドーの予想は、間違ってはいない。
『しかし、こんな幼子が……』
なぜか痛々しい目で見られて、正直、居心地が悪い。
「おら、さっさと行けよ」
ゴンドーが虫でも払うかのように、先に行けと手を振る。やっぱり、エルフたちに気を使っているのか、すぐに暴力とかに訴えてはこないようだ。例え場所に余裕があったとしても、こんな奴らと一緒にいる方が嫌だ。私たちはさっさと階段を降りることにした。
エルフたちの脇を通る時、微かに爽やかな植物の匂いを感じた。さすがエルフ、と思った瞬間、嫌な臭いも混じっているのに気付く。ずっと嗅いできた腐敗臭ではなく、黴のような匂い……嗅ぎ慣れたくはない呪いの臭い。背後にエルフの視線を感じながら、その場を離れる。
獣人の冒険者たちは、ヘリウスに気付くと頭を下げたり、手を上げて挨拶をしている。わりとまともな連中もいるようだけれど、人族のほうの冒険者はそうでもないらしい。そして、王族がいる証拠ともいえるのか、騎士の姿や、従者らしき姿も奥の方に見えた。
「なんだって、王族なんかが、ここにいるの?」
思わず、ヘリウスに問いかける。この辺のことに詳しいのは、双子よりもヘリウスだろう。
「……公爵家のボンボンと同じことだろう」
「王位継承とか、そういうヤツ?」
「ああ。あの紋章は……くそっ、あいつかよ」
忌々しそうに言うヘリウスは、それ以上言わない。私はイスタくんに目を向けると、彼も顔を強張らせている。
「なんか、ヤバそうなヤツなの?」
「ミーシャ、詳しい話は、ここから離れてからにしよう」
ニコラス兄様は、何やら知っているらしく、兄様も苦い顔をしている。うん、なんか、あんまりいい話ではないらしい。こっそり、地図に目を向ける。先程までは黒い点の集団だったのが、さっきの騒ぎのせいか、チラホラいくつか赤い点に変わっている。
「確かにね。ちょっと、ここから離れた方がいいかも」
私たちは足早に階段へと向かった。
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