第328話

 ふよふよと浮きながら、私を見下ろす土の精霊王様。


「どうかしたの?」

『うむ……あの入口で会ったエルフだけれど』

「うん? 執事みたいな人?」

『そう、アレは、見えているわよ』

「見えてる?」

『精霊が見える目を持っているってこと』

「へぇ、スゴイね」

『……わかってないわねぇ』


 呆れたように言うけれど、人族でも確か教会関係者には見えてたし。今更じゃないの?

 そういえば、私のことを見て驚いていた気がしたけれど、てっきり、若いイザーク兄様にしては大きな子供を連れているなって思って驚いたのかと思った。

 もしかして、土の精霊王様が見えていた?


『私のことは見えていないわよ。私が許さない限りね。そもそも、精霊を見ることのできる目の力は、人族の聖職者以外に、エルフの王族の血が流れている者に、多く見受けられるのよ』

「え、じゃぁ、あの執事さん、王家の関係者なの!?」


 思わず、叫び声をあげてしまう。

 ヤバい。慌てて防音効果付きの結界を張る。


「こんな大陸の外れの港町に、そんな血筋の者がおりますでしょうか」


 イザーク兄様が、困惑気味に土の精霊王様に問いかける。

 うん、確かに、王家関係者がこんなところにいるなんて……もしかして、左遷でもされたのだろうか?


『どうかしら……可能性としては、先祖返りもありえるとは思うけど。あの者が王家に連なる者かどうかまでは、すぐにはわからないわ。そもそも、美佐江は意識してないかもしれないけど、かなり多くの精霊が貴女の周りに集まっているのよ?』


 ――え、知らんがな。


 私のそばにいるのは精霊王様たちだけだと思っていた。


『小さな精霊たちは、自分では顕現させる力がないから、人の目には映らないことが多いの』


 私もかなり意識すれば見えるらしい。したことはないけど。

 そこは、『聖女』特典なのかもしれない。

 力のある聖職者に見えているのは、精霊の中でも比較的力の強い者たちのことらしい。

 そして、今、私の周囲には、力の強い者だけではなく、弱い精霊たちも集まっていて、なかなかにスゴイことになっているらしいのだ。


『試しに、イザークにも見せてあげましょう』


 そう言って、土の精霊王様が小さな右手をサッと振り上げると。


「うわっ!?」

「な、何これっ!?」


 ……部屋中がいろんな色の光の玉で、埋め尽くされていましたよ。青、赤、黄と信号の色みたいだけど、濃淡があるから、それほど派手派手しくはない。

 しかしまぁ、見事に明滅していること。


「こ、こんなにいたの……」


 唖然とする私。いやいやいや、凄すぎ。


『私たち精霊王がいつも傍にいるせいもあるかもしれないけれど、それ以上に、美佐江から漏れ出る聖女の魔力が、この子たちにとっても美味しい餌になってるんでしょうね』

「え、えぇぇぇ」


 ……私は撒き餌ですかい。


『まぁ、おかげで、中には力が強くなった子もいくつかいるみたいだけど』


 多くの淡い光の玉の中に、強い光を放つ子もいて、目立つようにとピコピコ動いてる。それが、力の強い子のようだ。


「まさか、これをあのエルフも見たというのですか」


 驚いていたイザーク兄様も、少しは冷静になったようで、心配そうに問いかける。


『あの者がどこまで見えていたかはわからないけれど、そこまでの力はないでしょう。でも、強い子は確実に目に入っているでしょうね』


 土の精霊王様の大きな溜息に、なんか、もう嫌な予感しかしないんですけど。


『やっかいなのは、エルフは、精霊に対して、獣人以上に信仰心が篤いの。特に、精霊に愛されている者、愛し子への執着が、凄まじいと言われているのよ』


 マジかぁぁぁ。

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