第327話
この大陸に到着してから、変化をするのをやめた。
さすがに、この大陸までは『聖女』の噂は来ていないだろうと思ったのだ。
獣人の国、ウルトガでは王家でのトラブルに駆り出されたものの、街にいてもその手の話を聞くこともなかったし。
それにこの土地に来てみて気づいたのは、意外と黒っぽい髪の人が多くいるのだ。これだったら私が特別目立つこともないと思うのだ。
そして、この宿。やっぱり高級なだけあって、お客さんはお貴族様や金持ちそうな商人が多いようだ。特に人族の。観光客なのか、商売なのか、こちらの大陸からあちらに向かう客がほとんどのようだ。ただ、なぜかエルフのお客さんはいない。
私たちが乗ってた船には、獣人が多く乗っていたのは、ウルトガという土地柄なのかもしれないが、彼らはどちらかというと、商人だったり、その護衛だったりするようだった。
お客さんの代わりに、メイドさんの多くがエルフだった。ようやく、まともにエルフの姿が拝めて、かなり満足。メイド服を着ているエルフさんたち。執事っぽいエルフと同様に、顔が無表情な感じなのは残念だけど、クールビューティーな感じなので、許す。
そういえば、コークシスでダンジョンに行った時に出会ったエルフの二人組。彼らは、エルフの言葉でしか話してなかったけれど、この宿のスタッフたちとは、普通に会話していたのを思い出す。やっぱり、そこは接客業だから、エルフの言葉ではないのだろう。
「ミーシャ、この後、どうする?」
荷物を下してソファに座ったイザーク兄様が声をかけてきた。ほとんどの荷物は、私のアイテムボックスに入っているから、見せかけの荷物だ。それでも、そこそこの量が入っているらしい。持たせてもらったけど、持ち上がらなかった。何を入れているんだか。
「どうしようね」
エルフのメイドさんが置いて行ってくれた、ウェルカムドリンクのオレンジ色のフルーツジュースを口にする。甘酸っぱい。オレンジジュースとも違う、少しねっとりした感じ。マンゴーに近い感じだろうか。鑑定してみると、『コモコのジュース』と出た。なんの果物なのか気になる。
「元々、エルフと会いたいって話だったけど、一応、この宿で目標達成かい?」
「いや、うーん」
達成か、と言われれば達成なのかもしれないが。
「ちょっと、思ってたのと違うというか」
そう、私のイメージは指輪な映画のエルフさんたち。
確かに執事なエルフもカッコいいかもしれないけれど、あのダンジョンで出会ったエルフたちの姿がある意味理想なのだ。しかし、この宿に来るまで、エルフと遭遇しなかった。
「となると、別の町に移動するか」
「とりあえず、情報収集しない? 港も、この宿まで来るためだけに通り過ぎただけだし。物騒そうだけど」
「そうだな……」
『美佐江』
私と兄様との会話に、割り込んできたのは、今日の護衛担当の土の精霊王様。ミニチュアサイズ版だ。なんだか、渋い顔をしている。
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