閑話

イザーク・リンドベルは謎の少女を追う(1)

 兄のリンドベル辺境伯から、伝達の青い鳥が届いたのは城内の自分の部屋へと戻った時だった。

 今回は第二王子のヴィクトル様の護衛のために、外交官たちとともにシャトルワースの王城に泊まることになった。近衛騎士は私の他、四名が付き従い、交代でヴィクトル様の部屋をお守りしている。実際には、私たち以外にも王家の影を従えていらっしゃるが、それはシャトルワース側に知らせる必要はない。


「どういうことだ?」


 義姉上の言葉に唖然とする。


「まさか」


 兄夫婦の娘が儚く亡くなった話は、転移の間でシャトルワース王国に向かう直前に聞いていた。兄からは、こちらは大丈夫だから、と言われ、ヴィクトル様とともにこの国に赴いた。

 それなのに、兄夫婦の元に生まれるはずだった娘の魂が、このシャトルワース王国に『聖女』として召喚されているという。

 しかし、滞在して一週間以上経つというのに、それらしい話は聞かない。

 読み続けると、どうも『聖女』はすでにこの城から逃げているらしい。彼女の容貌、必ず、連れて帰ってくるようにとの言葉に、唸ってしまう。


「どうしたものか」


 兄の言葉を信じないという選択肢はない。義姉が賜った神からの言葉という不確かな情報であっても。

 しかし、だからといって、私自身が王子を放って探しに行くわけにもいかない。

 まずはこの国の現状を把握する必要がある。


「オズワルド、カーク」

「はっ」

「はっ」


 どこに潜んでいるのか、名前を呼んだだけですぐに現れる二人は、隠蔽のスキルを持つ、私個人についている従者たち。

 目付きの鋭い方が兄のオズワルド、たれ目でおっとりした雰囲気のあるのが弟のカーク、私の乳兄弟でもある。


「この城内の様子、少し調べてきてもらえないか……特に、魔法師団あたり、もしくは教会周辺」

「よろしいので」


 私よりも年上で兄と同い年のオズワルドは、厳しい眼差しで問いかける。今回は友好目的での訪問なのに、ということなのだろう。


「急ぎ調べて欲しいのだ……この国で『聖女召喚』が行われたか、どうか」

「まさか」

「うん、私もまさかと思う。しかし……兄上からの情報だ」

「ヘリオルド様が」


 オズワルドの驚いた顔に、私も苦笑いを浮かべる。


「ああ、だから、その情報が正しいかどうか、それを確認したい。その上で、頼みたいことがある」

「頼みたいこと、ですか」


 私と同い年のカークが、訝し気に問いかける。


「まずは『聖女召喚』だ」

「はっ」

「はっ」


 二人は返事をするとともに、姿を消した。高レベルの隠蔽スキルを持つ二人なら、すぐに情報を拾ってくるに違いない。

 今後のことは、それからだ。

 私は、兄からの手紙を掌で炎の魔法で燃やすと、小さく溜息をついた。

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