イザーク・リンドベルは謎の少女を追う(2)

 調査の結果は、次の日の朝には出そろってしまった。


「まさかの黒だとはな」


 オズワルドは魔術師団から、カークは教会から情報得てきた。


 オズワルド曰く。


「魔法師団の上級魔術師の多くが、先週三日ほど休みをとっておりました。最近は大きな討伐も戦いもありませんから、これは多大な魔力が必要となる召喚を行ったことによるものかと思われます。また、魔術師団の団長補佐、イニエスタ・マートル氏が、第二王子のエドワード様のところに頻繁にご機嫌伺いに行かれております。その言葉から、聖女様が召喚されたのは事実かと……どうも、第二王子はマートル氏に再度、聖女様を召喚するように命じてるようですが、マートル氏は渋っているようですね」


 カーク曰く。


「教会側では、一部の大司教がそれに関わってるようですねぇ。聖女様に会わせるようにと、何度もマートル氏に接触しようとしてるみたいですが、全然、会わせてもらえないみたいですねぇ」


 再び、オズワルド曰く。


「どうも逃亡されたのは、今から三日ほど前のことのようです。メイドが一人、解雇されております。そのメイドが聖女様の担当した日に、逃亡されたようです。また、その日の王城の食料がのきなみ無くなっていたとのことで、騒ぎになったとか」

「え、まさか、聖女様が盗み?」

「可能性はある」


 難しい顔で肯定するオズワルド。


「メイドの話は聞けないか」

「無理ですね……すでに、死体となっておりました」

「なんと」


 二人がかりで得られた情報だが、調べようとしなければ私の耳には何一つ入って来なかった。メイドが消されたことからも、秘密裏に行われたことは確かだ。何のための召喚なのか。


「それとですねぇ、冒険者ギルドに人探しのクエスト出てました」


 カークはクエストの内容を控えた紙を差し出した。


『城で保護してた外国から来たと思われる老婆が行方不明。髪は短め、白髪交じりの黒、小柄、細身』


「……これが『聖女』だと?」

「いえ、『聖女』とは記載されてませんでしたが『城で保護した』と書かれてる点が」

「なるほど。しかし、『聖女』といえば若い女性をいうのではないか? それに、私たちが探してるのは少女だぞ」

「……そこがわからないところなんですよねぇ」


 腕を組みながら、カークも自分の書いた紙を見る。


「……とにかく『聖女召喚』は行われたわけだな。しかし、どうやってだか『聖女』は逃げ出した。それが老女であろうと少女であろうと、探し出して我が領へとお迎えする。それが兄上の望みだ」

「はっ」

「はっ」

「王都の中で見つかっていないということは、無事に脱出されているということかもしれない。まずは、乗合馬車の窓口へ行って、黒髪の少年か少女、もしくは老婆が一人で申し込んできていないか、調べろ。わかり次第、後を追え。けして、シャトルワースの連中に気取られるな」

「はっ」

「はっ」


 二人はそのまま部屋を出ていくと同時に、近衛騎士の同僚が入ってくる。

 できれば私も後を追いかけたいところだが、今日までは王子の傍を離れるわけにはいかない。これが終われば王子たちには転移でお帰りいただき、私も動くことができるはず。 

 少女の行方を気にしながらも、私は顔に出さないように同僚と今日のスケジュールを確認するのであった。

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