第5章 おばちゃん、クエストに挑戦してみる

第32話

 宿屋のほうは、問題なく延泊することが出来た。

 ひとまず、北上する乗合馬車が次に出発するのは三日後のため、今日も含めて三泊でお願いした。食事も美味しいし、居心地もいいから、もう少し長くいたい気もするけど、できるだけ早くこの国から出た方がいいと、本能が言ってる(気がする)。


 次の日、私は朝から冒険者ギルドに向かった。

 せっかくここでギルド登録したのだから、試しにクエスト、やってみたいじゃない。

 朝早い時間に来たつもりだったが、ギルドのドアからはたくさんの人が出ていく様子に、出遅れたことがわかった。

 重いドアを開けて中に入ってみると、まだ数人の冒険者たちがクエストの貼られた壁に立って選んでいる。

 私は出入り口のドアの近くにあるランクの低いクエストを眺める。私と同じようなランクを見るような人はいない。薬草採取が普通なんだろうな、とクエストの紙を見る。


「おい、坊主、邪魔だ」


 薬草といっても種類の指定がある。私ができるのは…。


「おい、邪魔だって言ってんだろ」

「ふえっ!?」


 頭の上から、だみ声が落ちてきた。

 あまりの声のデカさにびっくりして見上げると、スキンヘッドの強面のおっさんが見下ろしている。

 おう……。口をパッカーンと開けたまま固まる私。


「ほれ、どけ、さぁ、お嬢様、こちらですぜ」

「ありがと、ゲール」

「いえいえ」


 おっさんは私の頭を掴んで、思い切り後ろの方へと押し出した。

 転ばなかっただけマシなのかもだけど、掴まれたところ、すごい痛いんですけど。

 その一方で、お嬢様、と呼ばれてたのは、見かけ年齢だけなら私と大差ない女の子。壁の方へと優しく案内されてる。これがイケメンとかなら羨ましいところだけどね。

 お嬢様と呼ばれるだけに、なかなかゴージャスな格好ですよ。

 金髪のドリルヘアに青い目、フリフリのピンクのドレスに真っ赤な革靴。どこにお出かけですか、といいたくなるような装い。ていうか、あれも冒険者なの?

 おっさんの方は、なんかデレデレしてて気持ち悪いし。ていうか、ロリコンか?


「そうねぇ、ゲール、これなんかどうかしら」

「流石ですね、お嬢様。では、この薬草採取に参りましょう」

「よろしくね」


 私は無言でこのやり取りを見つめてる。他の冒険者たちはといえば、まったく目もくれない。これって、いつものことってことなんだろうか。

 短期間とはいえ、ここでクエストをいくつかこなすつもりでいるだけに、面倒そうな人たちとは関わり合いたくないなぁ、と思ってしまう。

 できるだけ、あの人たちとは離れたところでできるクエストにしないと、と強く、強ーく思ったのは言うまでもない。

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