第47話

 はい、逃げる暇、ありませんでした。

 乗客たちは馬車のそばに固まってます。いいなぁ。炎の加減がいい感じで癒されそう。遠い目で見つめる私。

 その上、みんな食事始めてるのに、私、少し離れたところでイザークさんたち三人に囲まれてます。誰も助けてくれません。そうですよね、お強そうな三人に、アンディさんたちだって手を出そうとも思いませんよね! むしろ生温い目で見てる気がするんですけど、気のせいでしょうかっ!

 上目遣いで一人一人に目を向けて、リュックサックの持ち手の部分をギュッと握りしめる。


「まぁまぁ、そんな怖い顔しないで」


 そう宥めるのはカークさん。たれ目で優しそうに見えるけど、本当のところなんてわかんないよね? だって、領都でのオズワルドさんのこともあるし。ギルドでは助けられたけどさ。そのオズワルドさんも、無言で見下ろしてる。単純に怖いですから。

 ジリジリと逃げ腰になってる私を、まるで小さな獣を捕獲しようとでもしてるかのように、三人が囲ってくる。もう背後は山の岩肌が見える斜面。逃げられない。

 もう、最悪は魔法をかけなきゃダメかな。何がいい? やっぱり、スリープ? 


「魔法は止めてね?」


 にーっこり、という擬音がつきそうな笑みで注意したのも、カークさん。

 何? なんで考えてることわかっちゃうの? うう、怖いよぉ。


「そんなに怖がらなくていい。我々は、君の味方だ」

「……味方?」


 イザークさんが困ったように告げるけど、敵対反応はないけど、王城の中の人たちだって敵として認識なんか出来なかったし。口ではなんとでもいえる。訝し気に睨みつけてしまう私は仕方がないと思う。

 例えイケメンだからって、信用しちゃいけないのだ! と、思っていたんだけど。


「アルム神様……と言えば伝わるか?」

「っ!?」


 こっそりと囁くように出されたのは、あの神様の名前。第三者からその名前を出されるとは予想もしていなかっただけに、思わず目を見開いてしまう。

 イザーク様はニッコリと笑うと、リュックサックの持ち手を握ってた私の両手をとってギュッと握りしめた。


「私の名前はイザーク・リンドベル。私の義理の姉が、アルム神様から神託を受けたのだよ……君は聖女様で間違いないかい?」


 ……リンドベル……リンドベル……リンドベル!?

 おおう……まさかこんなところで……アルム様が言ってたリンドベル辺境伯の関係者と会えるなんて。

 あっけにとられた私を、三人が困ったような、でもどこか面白そうな顔で見つめていた。

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