第46話
私たちは陽が落ちる前に、なんとか野営のできる場所へと辿り着いた。
いやー、思った以上に長かった。何せ、無言の時間の長いこと。
確かに馬車に一人で乗ってた時も長かったけど、何気にナビゲーションで調べものとかしたり、居眠りすることも出来た。でも、こうして馬上の人になって、背後に誰かがいる状態じゃ、何も出来なかった。
その上、初めての乗馬。慣れないことはするもんじゃないね。乗合馬車でも最初はお尻が痛かったもんだけど、乗馬もキツイ。それに太腿の内側とか、何気にすれてて痛いのよ。肉体的にも精神的にも、それは辛いこと、辛いこと。
なのにイザークさんは、聞いたことがない曲をご機嫌な様子で鼻歌歌ってるし。ちょっといい感じに心地いい低音だったけどさ。
イザークさんから話しかけられたのは最初だけで、それからは何も聞かれていない。当然、私から話しかけることもしなかった。むしろ、ずーっと、どうやって逃げるかしか考えてない。
「それじゃ、野営の準備するから、ミーシャ、手伝ってくれるか」
馬車を止めた御者のおじさんに呼ばれて、馬から降りようかとしたら。
「ああ、私がお手伝いしますよ」
……なぜかカークさんが行ってしまう。
「え、でも」
「大丈夫です、あなたはここで待っててください」
にっこり笑うカークさん。えぇぇ……この場から逃げられるチャンスだったのに。
「ミーシャ、一人で降りられるか」
いつの間にか、先に降りてたイザークさん。両手を広げて待ち構えてる。
あー、うー。悩ましいところではある。でも、大丈夫と言えるほど、馬に慣れてない自覚はあったので、大きく溜息をつきながら、素直にイザークさんの手を借りた。というか、抱っこされてるよ、私。
「……軽いなぁ」
「ふえっ!?」
耳元で囁くなぁ!!!
私はジタバタしながら、なんとかイザークさんの腕の中から抜け出した。
なんなんだ、この人! あれか、いわゆるゲイってヤツか!?
「イザーク様、揶揄われるのも、ほどほどに」
オズワルドさんが、苦笑交じりに注意してくれてる。こうしてイザークさんを諫めてくれるあたり、怖い人という印象だったのに意外にいい人そうに見えてくるから、不思議だ。
「もう、やめてください」
「ハッハッハッ! いやぁ、ミーシャはカワイイなぁ」
そういって、私の頭をぐしゃぐしゃっと撫で捲る。何、何の根拠があって、カワイイなんて言ってるんだ? もう、結構、私、いっぱいいっぱいなんですけど! 乗客のおじさんや、おばさんからの生温い視線も辛いんですけどぉぉぉっ。
「イザーク様」
「ああ、わかってる」
私が苛々しながらボサボサになってしまった髪を直していると、イザークさんが腰を落として、私の顔を覗き込んだ。
「ミーシャ、ちょっと話があるんだが」
……悪い予感しかしないんだけどぉぉぉっ!
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