第45話

 山道をぽくぽくと馬の蹄の音がする。

 長閑だ……などと言ってる場合じゃないのよっ!


 一応、無事に盗賊の引き渡しは出来たさ。うん、一応、二度掛けしたけどね。スリープ。ゴロンゴロンと冷凍マグロみたいに馬車に放り込まれてる姿は圧巻だった。

 こいつら、懸賞金対象になってたみたいで、ギルドの職員には感謝されまくった。主に、イザークさんが。捕らえたのは、私やアンディさん、メロディさんなのに。

 どうも、イザークさんは有名人なのか、ギルド職員、へこへこ頭を下げ捲ってた。懸賞金については、次にいく町にある冒険者ギルドで受け取るようにしてもらえるらしい。さすがに、また戻るのは面倒な距離だったもんね。


 し・か・し。


 な・ん・で。


 私はイザークさんと一緒の馬に乗ってるんでしょうね?

 私が乗ってたはずの乗合馬車は前にある。そう、私だって、乗合馬車に乗りたかった。いや、実際、乗るつもりでいたさ。なーのーにー。イザークさんに襟首捕まれ、現在に至る。

 結局、イザークさんたちも向かう方向が同じ、ということで護衛代わりに同行してくれるということになったのだ。それも、報酬はいらないと言われれば、御者のおじさんも断るどころか、感謝するよね。アンディさんたちにしても、後方の不安がないわけだしさ。むしろ、どこか尊敬の眼差しなんだけど。やっぱり、この人たち、有名人なんだろうか。

 でーもー!


「……ミーシャ」

「は、はいっ」


 背後に座るイザークさん、ギルド職員にギルドカードの確認をされた時に耳にしたのか、自己紹介する前から、私の名前を呼んでたんだけど。もうね、狙われてるの? 私。そう思うと、不安で仕方がないんですけど。あのオズワルドさんの上司っぽい人よ? 絶対、なんかあるよね?

 チロッと下から見上げるようにすると、なぜかイザークさん、「うっ」と呻いて、顔を手で隠しながら目を逸らした。

 えっ、えっ、もしかして、私、臭うのっ!? ちゃんとクリーンかけたのに?

 慌てて、自分の身体の匂いをくんくんと嗅いでみるけど、自分じゃわかんないよ!


「……あー、ミーシャくん、大丈夫、君は臭くない」


 そう声をかけてきたのは隣に並ぶように馬を走らせている怖い人、オズワルドさんだ。顔つきはやっぱり怖いままだ。後ろからカークさんが笑いを堪えてるのか、ぷぷぷっという音までする。


「そ、そうですか」


 よかったよぉ。この状態で加齢臭はないにしても、体臭キツイとか、乙女(中身おばさんだけど)としては辛いもの。

 でも! いつまでこの状態なんですかね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る