閑話
イザーク・リンドベルは少女を抱きしめたい
オズワルドから『アルトムでそれらしき少年・少女の情報あり。引き続き調査の予定』
との連絡を受け、私は王都から一人、北へと馬を走らせた。
第二王子のヴィクトル様たちはすでにシャトルワース王国の王城内にある転移の間より、帰国された。本来ならば、ご一緒すべきところ、兄である辺境伯からの依頼があること、またシャトルワース王国によって聖女召喚がなされたことを報告し、国王様へ急ぎお伝えいただくようお願いした。
同じようなタイミングで、カークからは南はそれらしき姿は確認出来なかったとの連絡があり、すぐにシューリス公爵領の領都アルトムへ向かうよう伝達の青い鳥で指示した。
アルトムの街の一つ前の小さな町でカークと合流すると、我々は馬を休みなく走らせた。
「お待ちしておりました」
街に入ってすぐ、オズワルドから声をかけてきた。
休みなく走り続けていたことと、すでに日は落ちていたこともあり、我々はそのままアルトムの街で宿をとった。
そしてオズワルドの話を確認する。明確に本人確認は出来ていないが、短い黒髪の少年の一人旅、という点で疑わしい者がいたこと、そしてその者が乗った乗合馬車がすでに早朝に出てしまっていることはわかった。
ゆっくりと進む乗合馬車、途中、魔物に遭遇することもあれば、我々が馬で追いかければ、追いつくに違いないと思った。
しかし、結局追いついたのは領都を出て最初の町に入ったところでだった。本来なら、もっと手前で追いつけるはずだったのに、乗合馬車のスピードに驚くしかない。
乗合馬車から降りてくる乗客の中、一人の黒髪の小柄な少年らしき姿が現れた。
「もしかして彼か」
「そうです」
グレーのマントを羽織り、小柄な身体に似合わない大き目なバッグらしきものを背負い、周囲を見渡している。見た目は十才くらいだろうか。男の子にしては、可愛らしい顔立ちをしている。いや、女の子だと思えば、不自然でもなんでもない。逆に短い髪が痛々しいくらいだ。
宿屋の前あたりに来た時、我々の視線に気付いたのか、不審そうに周囲を見渡している。小首を傾げている様は愛らしい。
見つからないように身を隠したが、私の心はすぐにでも駆け寄り、抱きしめたいと思った。たぶん、無意識にだろう、彼女の方へ歩き出したところ、オズワルドに右腕を掴まれた。
「イザーク様、もう少し、様子をみましょう」
「あ、ああ」
この衝動はなんだろう。
四つ下の双子の弟や妹には感じたことのない情愛の気持ち。護りたいという想いが、溢れてくる。
「あの宿に泊まるようですね」
「念の為、乗合馬車に明日の出発時刻を確認してきます」
「わかった」
まだ、彼女が義姉がいった少女と確認が取れたわけではない。それでも、私の中では確定事項となっている。
必ず彼女を護り、兄夫婦の元へと連れて行く。
しかし、まさか盗賊どもを眠らせるほどの力があるとは思わなかった。
目の前で怯える姿が、庇護欲をそそり、思わず笑みが零れてしまう。
彼女の小さな手を握りしめて、私の名を伝える。
「私の名前はイザーク・リンドベル。私の義理の姉が、アルム神様から信託を受けたのだよ……君は聖女様で間違いないかい?」
彼女のびっくりした顔の可愛らしさに、兄夫婦にも見せてやりたい、と痛烈に思った。
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