第169話
王都の屋敷から、まっすぐ魔の森の家の寝室に飛んだ。
デザート食べてお腹いっぱいで幸せ~な気分で帰ってきたはずだったんだけど。誰もいない真っ暗な部屋で、外から虫の音が微かに聞こえてきて、この家には人っ子一人いないんだって、改めて気付かされる。
――人恋しい、っていうヤツなんだろうか。
さっきまで、イザーク兄様たちといたせいで、余計にそう感じるのかもしれない。特に、イザーク兄様からはスキンシップが多い。
頭をなでなで、私の手を握る、気分が乗ると、私の頭にキスをする。前から思ってはいた。私はペットか? と。まぁ、確かに、手を置く位置はちょうどいいのかもしれないが。
エドワルドお父様やアリスお母様だって、頭を撫でてくれる。ヘリオルド兄様とジーナ姉様、パメラ姉様や、ニコラス兄様は、ハグが多い。
接する機会だけでいえば、イザーク兄様なんかよりもよっぽど多いのに、なぜだろう、兄様のそれには安心感がある。長く共に行動してきたせいだろうか?
ドアのそばのスイッチを押して、部屋の灯りを灯す。ぼんやりと暖かい色の灯りがともって、少しだけホッとする私。
今までだって、多少は寂しいっていう思いがなかったわけじゃない。でも、転移があるから、すぐに領都にいけるし、エドワルドお父様たちにだって会える。変な話、距離があっても同じ屋敷にいるのと同じ感覚のはずだった。
「……なんだろうね?」
ぽつりと呟く私の声が、家の中で響く。それが余計に、寂しさを意識させるような気がして、それを振り払うように、私はぶるぶると頭を振った。
さっさと風呂に入って、早い所寝てしまおう、と部屋を出た。
温かい風呂というのは、やっぱり日本人には欠かせないんだなって、つくづく思う。やっぱり、気持ちがゆったりする。クリーンでも綺麗になるってわかってても、やっぱり、ちょっと違う。ぬくぬくした状態でベッドに潜り込んで、そのまま寂しさを抑え込んでしまおう、と思ったけれど、どうも、それも上手くいかなかった。
何も考えないで眠ってしまいたかったのに、今更ながらに、夫のことが頭に浮かんでしまった。もう、しばらく考えることもなかったのに。
――あんなに、死んだら生きていけない、とか言ってた人だったけれど、大丈夫だったろうか。
――飼い猫たちをおいて自殺をするとは思えないけど、きちんと食事をしてるだろうか。
――引きこもってないで、ちゃんと仕事しにいってるかしら。
目を閉じていても、頭の中でぐりんぐりんと、そんなことばかりが浮かんで、うつらうつらしているうちに……私の意識は白い靄の中へと吸い込まれていった。
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