第170話

 うん?

 目を開けると、なんか見覚えのある顔が。


「あら、やだ、気が付いた?」

「うおっ!?」


 女の子らしからぬ叫び声をあげる私。すまん。『女の子』ではないか。


「もう、久しぶりなのに、随分ね」


 ええ。目の前にいたのは、本当にお久しぶりのアルム様。そして周囲は、やっぱり見覚えのある白い空間。私は白いソファに座ってて、アルム様に覗き込まれておりました。


「うえっ!? なんでっ!? ま、まさか、またどっかに召喚された!?」

「ち~が~う~わ~よ~」


 なんか、相変わらずのアルム様で、ちょっと肩の力が抜ける。


「えーと、では、ここは」

「うん? 前と同じ場所よ~。ただ、今回は美佐江の精神だけが来てるから、ほら、自分の身体、見てみて~」


 言われて視線を下ろして、足元から自分の両手までをなぞるように見る。


「あ」


 そうなのだ。実年齢の自分と同じ、身体の大きさになっているっぽい。それも、なぜか、綺麗なネイビーの細身のドレスを着ている。慌てて立上って、くるくると回ってみる。うお、ドレスの裾が広がる、広がる。


「ちょ、ちょっと、アルム様!? お、おばちゃんの私がこんな綺麗なドレスとか、すんごい無理があるんですけどっ!」

「え~? そう~? でも、美佐江、変化のリストでドレス着た実年齢の自分とかになれないじゃな~い? だから、用意してあげたんだけどぉ」


 いや、それは、それは確かにありがたい。ありがたいよ? でもさ、髪が短いおばちゃんじゃ、ちょっと変でしょ? おかしいでしょ? 似合わないでしょ?

 色々言いたいんだけど、なぜか、ぐるぐる考えるだけで、言葉にならない。


「もうっ。変じゃないわよぉ。ちゃんと、これみなさいよっ、と」


 ぼすん、という音とともに、私の目の前に置かれたのは、私の全体像が映る大きな姿見。


「え、こ、これって」

「ふふふ、もう、美佐江に似合わない格好なんか、させるわけないでしょう?」


 びっくりです。

 ええ、黒々とした髪が、美しく結われています。こんな髪型、結婚式以来です。そもそも、こんなドレスもだけど。そして、びっくりするくらいしっかりメイク。何、これ。これから、舞台にでも出る女優さんみたいなんですけどっ。


「あと、そうそう、一応、中間の年齢も変化出来るようにっと」


 ふわんっと、空気が私を包んだかと思ったら。


「マ、マジか」


 あんぐりと口を開いた私の顔は、かなりみっともない。

 しかし、しかしですよ! 結婚した頃の私ですよ! 思わず、鏡に近寄って、目元の皺とか確認しちゃうよね。

 そして、披露宴の時はウェディングドレス着ちゃって白だったんだけど、今着ているドレスの色は、薄い桃色。自分じゃ絶対選ばない色ですよ。


「いいじゃない、いいじゃな~い?」

「い、いいけど、ちょっと、待って」

「何~? これからだって、変化することもあるでしょう?」

「た、確かにあるだろうけど……」


 王都のイザーク兄様や、ヘリオルド兄様、ジーナ姉様のことを考えると、絶対、トラブルに巻き込まれそうだ。特に、あのなんとかっていう令嬢(すでに名前、忘れちゃった)関係で、イザーク兄様が、何かされそうな予感しかしない。


「ねぇ? だからぁ、何パターンか、用意しましょ? ねぇねぇ、今度は、こういうのどう?」


 ……アルム様、絶対、着せ替え人形扱いしてるよね?

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