第171話

 確かに、いろんなパターンの服装をするのは、楽しかった。綺麗にしてもらえるのは、女はいくつになっても嬉しいものだ。


「……少しは気分が上がったかしら?」


 絶対、あの世界では着てる人がいないだろう、身体のラインがはっきりわかる、マーメイドラインのドレス姿に、ワクワクしている私に、アルム様が優しく聞いてきた。

 まさか、私が落ち込んでたから?


「うふふ。もう、そっちでは手伝って上げられないから、せめてもって思ってね。」

「アルム様……」

「やーねー、美佐江のいろんな姿も見たかったのも本当よ? ちょーっと、その格好は、あちらでは斬新過ぎて、はしたないって言われそうだけど」


 ……確かに。プリンセスラインのドレスが主流ですからねぇ。


「あ、そうそう、美佐江の旦那ね」


 なぜか、煎餅を片手に話し出すアルム様。いつの間にそんな物を、と思ったら、テーブルの菓子皿にもりもりに盛ってある。

 バリリッと気持ちのいい音をたてながら食べてるアルム様が、にっこり微笑んだ。


「んっぐ、もう、大丈夫よぉ。新しい恋人、できたみたいだしぃ」


 アルム様の言葉に固まった。


 ――え。もう?


 そう思うのは私だけじゃないはずだ。だって、私いなくなって、半年も経ってないよね。え、そういうもの!?


「えっと、あー、恋人、というか、猫友? なんか、仲良くしてる人ができたみたいだから、気にしなくておっけー! というか、美佐江も、若返ってるんだし、恋しなきゃ駄目だぞぉ?」


 呆然としている私をよそに、アルム様の言葉が流れていくけど、全然、頭に入らない。『恋人』というワードのパワーが半端ない。

 あの人が、恋人? 散々、生きていけない、言ってた人が? というか、あのハゲ親父に!?

 ……自分でも酷いことを言っているとは思う。だけど、こっちがまだ心配しているのに、恋人? 身勝手だってわかってても、恋人!?

 ぐ~るぐ~ると、なんともいえない感情が渦巻く。これは嫉妬なんだろうか?


「美佐江~? おーい? 大丈夫~?」

「はっ!?」


 昏い感情に嵌りそうになっていたところに、アルム様の手が私の目の前で振られているのに気が付く。


「もう、美佐江? よ~く、考えて。旦那だって独りは辛いのよ。そんな弱ってる時に、それを支えてくれる人が出来たら、頼りたくなるのは仕方がないのではなくて?」

「っ!」

「貴女には、新しい家族がいる。でも、彼には? 猫ちゃんたちはカウントしないわよ?」


 そう言われてしまえば、自分の理不尽さに、反省しかなく。そして、どこかで『あの人は私だけなの』と、驕っていた自分を痛感させられる。

 傍にいない相手を、いつまでも想い続けるなんて、無理な話よね……。


「やだー、まさか旦那が貴女のことを忘れてるとでも思ってる? あんなに溺愛されてたのに? 今でも、貴女が一番みたいよ。仏壇に向かっていっつも話しかけてるみたいだし」

「……前から気になってたんだけど、私の扱いって」

「地球の神に頼んでダミーを置いといてもらったわよぉ。もう、ほんと、あいつら余計な手間ばっかりかけやがって」


 アルム様、言葉遣いが……。低音怖いよ……。


「だから、ちゃーんとお葬式もしてるの。旦那は、号泣してたらしいけどね。あ、これ、地球の神情報。なんかぁ、彼も気にしてたのよー、私たちのおしゃべりの間に美佐江が召喚されちゃったから。だから、時々、あっちの情報もくれるの」


 うふっ、とか笑って見せるけど、イケメンオネエにそれは、どうなの。

 ああ。なんか、脱力。

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