第223話

 私たちが中に入るなり、第一王子が椅子から立ち上って駆け寄ってきた。イザーク兄様に気付いて、慌てている。うむ。安定のイケメン。帝国の皇太子なんかよりも、品があって、良し。


「イザーク!? ミーシャ殿、これはいったいどうなってるのだ」


 話を聞いたところによると、こちらに到着してすぐにイザーク兄様は、帝国の公爵家の方に連れていかれたとか。公爵令嬢が会いたいと言ってるから、とのことで、兄様も断ればいいものを、やはり学生時代に仲の良い相手だったこともあって、王子に断りを入れて会いに行ってしまったとか。

 一応、自国の第一王子の警護のために来てるからと言って、一旦はすぐに戻ることが出来たが、ことあるごとに呼ばれたのだという。どんだけ我儘娘だよ、と思うんだが、兄様は強くは断れなかったらしい。絆され過ぎだろう、イザーク兄様。もしかして、元カノとか言わないだろうな。思わず、ジロリと抱えられている兄様を睨んでしまう。

 結局、公爵の方から、他にも護衛騎士はいるだろうと、帝国側からも警護をつけるから、と押し切られて、イザーク兄様は公爵家の方に留まることになってしまったとか。

 さすがに誕生祭は仕事をさせてくれ、と言って、なんとか王子の側に戻ることが出来たらしいが、終わったらすぐに、再び公爵令嬢に連れられていってしまったとか。

 たかが公爵に、隣国の王子が押し切られるって、どんだけ帝国に及び腰なのよ、と言いたいところだけれど、実際、それだけ強大な国だったわけだ。

 

「まぁ、もう、風前の灯かもしれませんけどね」


 私の冷ややかな笑みに、第一王子は何かを察したのか、私の後ろに立つ精霊王様たちに気付くと、目を瞠る。


「……恐れながら、もしや、後ろにいらっしゃる方々は……」

「うふふ、聞いちゃいます?」

「いえ、やめておきましょう……それよりも、イザークは大丈夫ですか」 


 王子様、ちょっと言葉遣いが変わりましたね。うん、その対応、正解。


『かかっていた魅了を解いた。合わせて魔力切れも起こしておる。しかしこの者であれば、少し休めば元通りになるであろう』

「なんと!? 魅了などと……まさか、やはり……」


 悔し気な顔をする第一王子。弟である第三王子のことを連想したのだろう。

 レヴィエスタという国は、外交的にはうまく立ちまわっている国だったはずだったけど、帝国から見ると、目障りだったということなのだろうか。国レベルの思惑なんて、おばちゃんの私には理解できない。しかし、未来ある若者の人生、変えちゃうのは許せないよね。


「とりあえず、国に戻りましょう。この部屋の結界が解かれたことは、あちらにもすぐにバレるでしょうし。私もちょっとやらかしたんで、さっさと帰りたいんで」


 結界張ってるからって、警備に誰もついてないのはラッキーだった。今は、皇太子や公爵家がゴタゴタしてるから、すぐには来ないかもしれないけど、絶対ない話ではない。


「いや、しかし、この部屋から転移の陣に行くには」

「あ、大丈夫です。私、できるんで」

「え?」

「あ、言ってませんでしたっけ……転移の魔法持ってるの」

「聞いてませんっ!」


 ありゃ、失敗。転移の魔法自体がかなり珍しいこと、身内にしか話してなかったことをすっかり忘れてた。

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