第132話

 王妃様主催のお茶会は三日後、ということで、まだ時間はある。正直、マナーとかに自信がなかったので、その間に確認の意味でも勉強しといたほうがいいかもしれない。ううう、でも面倒くさいなぁ。


「そういえば、このカリス公爵夫人とは面識はないんだけど……ギルバート、どんな方か知っている?」


 姉様、真っ黒野郎のところの手紙を手にして、小首を傾げている。


「ああ、そちらは三年前に再婚をされたようですが……こちらの奥方はあまりよい話は聞きません」


 ギルバートさん情報では、平民上がりはだてじゃなく、なかなか奇抜な奥方らしい。

 別に平民が悪いってわけじゃない。貴族に嫁に入るってだけでも、本来なら大変なんだろうって思う。それなりの努力をしてるなら。でも実際の所、どうも公爵がベタ惚れで、好き放題らしい。それを聞いたら、苦労してそうなマルゴ様の顔が浮かんだ。


「そうなのね……でも、カリス公爵家なのよね」


 断りづらい相手なのは、姉様の困った顔でわかる。まぁ、確かに、辺境伯という立場からでは、公爵の誘いは簡単には断れないよなぁって思う。こちらは、王妃様主催の翌日だ。執事さんみたいに注意してくれた人がいたのか、さすがに同じ日にはしないくらいの頭はあったらしい。


「姉様、私も一緒に行きます」

「ミーシャ、いいのよ無理は」

「『聖女』としてでなければいいでしょ? 例えば……パメラ姉様とか?」

「まぁ……そう、ね。でも、大丈夫かしら」

「あちらは、パメラ姉様のこと、ご存じないでしょ?」


 ジーナ姉様は少し考え込んでいる。 


「あ、あの……」

「何? ギルバートさん」

「ギルバートとお呼びください。ミーシャ様……今からパメラ様をお呼びになるのですか? さすがに、お茶会などの私用では転移の間はお使いいただけないかと」

「あ、ああ、んとねぇ……」


 こんなにメイドさんたちいるところでは、変化のリストを使って見せるわけにもいかないかな。でも、これからのことを考えたら、ここにいるメイドさんたちには知っててもらっていないと難しいかしら。


「……ギルバート、メリンダ、ライラ、それ以外は部屋から出るように」


 ジーナ姉様のいつにない低い声にも、動じることなく、メイドさんたちは部屋を出ていく。残ったメイドさんの二人は、王都でジーナ姉様についてる二人だ。


「ミーシャ、結界をお願いできる?」

「はい」


 言われた通りに結界をはると、ピシッと部屋の中の空気が変わるのがわかる。


「さて、ギルバートたちにだけ、ミーシャの能力について教えておきます。これは他言無用です……ミーシャには変化する能力があります」


 うん、私の能力じゃないんだけどね。そこまで話してなかったわ。まぁ、それはそれとして、変化してみますか。頭に浮かべたのは一応、記憶にあるパメラ姉様のドレス姿。


「おおおお」

「まぁ……」

「……」

「まぁ、そっくりね。さすがミーシャだわ」


 うん、冒険者の格好のパメラ姉様にならなくてよかったよ。内心、ホッとする。その場にいるギルバートさんたちの反応も上々。

 とりあえず、公爵邸にはこれでいきましょうかね。

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