第131話

 いい雰囲気だったのに。ちょっとイラっとする私に、ジーナ姉様はクスッと笑う。


「ミーシャ、か~お。……はい」

「失礼します」


 姉様の返事が返った途端、ドアが開くと、執事のギルバートさんが何やらトレーに手紙みたいのをいくつか持って現れた。


「奥様、おくつろぎの所申し訳ございません」

「どうかしたの」

「はっ……急ぎお返事を頂きたいお手紙が来ておりまして……」


 ギルバートさんがトレーを差し出された。うん、随分と綺麗な封筒ですな。姉様が一通手に取ると、驚いた顔をした。


「どうしました?」

「ええ……王妃様からお茶会のお誘いを頂いたようです」

「うわぁ……」


 超めんどくさい。他にもどこそこ公爵やら、なんとか侯爵やらからのお手紙が来ている。その中にも、あの真っ黒野郎(マルゴ様の父親)のところの手紙もある。基本、お茶会ってのは奥様たちが主催してるらしいので、たぶん、あのお馬鹿女の母親……後妻さんってことなんだろうな。この前の兄様が誘われてたお茶会なんだろうか。


「伯爵以下のところはお断りをされるかと思いまして、返信用のお手紙はご用意しております。後でご署名いただければよろしいかと。こちらのは、奥様からのご返事が必要かと思いまして、お届けにあがりました」

「ありがとう。ギルバート……あまり王都には長居したくはないのだけれど。いくつかはお邪魔しないといけないわね」


 大きな溜息をするジーナ姉様は、困ったような顔で一枚一枚手に取っている。


「そうねぇ。王妃様のところはお断りはできないでしょう。こちらはミーシャも一緒に、となってるわ。後のところは、ミーシャは行かなくてもいいわ。私が行けばすむところばかりですし。ミーシャはいくらでも言い訳はできますからね」

「姉様、無理はいけませんよ」

「ありがとう。でもね、これでも私は辺境伯夫人なの。社交の場に出ないわけにはいかないわ……これも、ヘリオルドのためになる仕事ですからね」


 おう。姉様、やる気満々やん。正直、体調が落ち着いてきていたとしても、過度なストレスは避けた方がいいと思うんだけど、仕事、と言われると私も強引にやめさせるのも気が引ける。


「……姉様が行くなら、私もお付き合いしますわ」

「ミーシャ、いいのよ、無理しなくて」

「いえ、姉様一人が攻撃にさらされる必要はありません。二人になれば攻撃の矛先もわかれますから」

「攻撃だなんて」


 クスクス笑うジーナ姉様。


「ミーシャ、ありがとう。あなたがどんな想像をしているのかわからないけれど、いくつかは知り合いの家も招待されているかもしれないから、大丈夫よ。下手に『聖女様』を連れていったら、余計な波風がたちそうだから、やめておいたほうがいいのよ」

「そうなの?」

「ええ、『我が家には聖女様が来た』というのを吹聴されて、うちもうちも、となったほうが面倒でしょう?」


 うむ。そう言われればそうだけど。


「フフフ、だてに八年も辺境伯夫人をやってきていないわ」

「姉様……」


 力強い姉様の言葉に、つい笑ってしまう。

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