第130話

 国王様との謁見も終わったし、シャトルワースへの対応も私の分は終わったはず。だったら、さっさと王都からおさらばしたい、のだけれども、そうもいかないらしい。

 イザーク兄様は仕事柄王都勤務なので仕方がないにしても、ヘリオルド兄様はもう帰ってもいいじゃないって思う。しかし、辺境伯が王都に来ること自体が稀だってことで、あちこちの貴族たちにお呼ばれしまくってるらしい。

 私にも色んな貴族から招待状が来ているらしいんだけど、そこはヘリオルド兄様が断ってくれている。だからこそ、代打みたいに出かけてるのかな。ヘリオルド兄様、ごめんねぇ……。


 ぼーっとしながら外を見ていると、部屋のドアを遠慮気味にノックする音がする。


「はい」


 私の返事で、ゆっくりとドアが開き、私よりも少し(肉体的に)年下のメイドさんが顔をのぞかせる。ちょっぴりオドオドしてて可愛い。メイドのお仕着せに、着られている感が半端ない。まだ、この屋敷にきて間もないのかもしれない。


「あ、あのミーシャ様」

「何?」


 彼女には悪意を感知しなかったので、窓際から彼女のいる方へと向かう。


「え、えと、お、奥様がお茶でもどうか、とのことなんですが」

「ジーナ姉様ね。わかったわ。案内してくれる?」

「はいっ」


 嬉しそうに歩く彼女の後をついていく。きっと普段、頼られることがないのだろう。仕事を任されて嬉しい、って顔してる。うん、可愛いな。

 それにしても、大きな屋敷。地図情報無しでは迷子になる自信がある。そして、私が移動する方向に、いくつかの赤い点が動いてる。私の視野には入って来ないあたり、屋敷の者ではなく、スパイみたいな者だろうか。


「ああいうのって、どうしたらいいのかしら」


 ボソリと呟く。ほんと、鬱陶しいったら、ありゃしない。


「はい? 何かおっしゃいましたか?」

「ううん、何でもないわ」


 ニッコリ笑いながら、長い廊下を歩いていくと、角の大きな部屋へと案内された。


「ミーシャ! 待ってたわ」

「ジーナ姉様、お待たせしてすみません」

「いいのよ。さぁ、座って」


 リンドベル領にいた時よりも、少しだけ元気になったみたいで、頬にも赤みがましているジーナ姉様。私を独り占めできるからか、嬉々として私の世話をしたがる。まぁ、彼女が喜ぶなら、と私もされるがままだけどね。

 静々とメイドさんたちがお茶の準備をしている様子を観察しつつ、地図情報チェック。せっかくの時間なのに、毎回、こんなんじゃ疲れちゃうな。あ、ちなみに、この部屋の中は赤い人はおりません。


「今日はコークシス産のお茶を頂いたものだから、ミーシャと一緒にと思ったのよ」

「コークシス?」

「ああ、ミーシャは知らないわね。トーラス帝国の東の先にいくつか小国があるのだけれど、その中のコークシスという国がお茶の産地として有名なの。トーラス帝国は東西に長い国なものだから、なかなか入って来ないのよ」


 ティーカップに注がれる赤いお茶。ほのかに花の香りがする。そして、ついつい鑑定してしまう。よし、毒は入ってないね。


「いい香りですね」

「ええ、この香りだけでも癒されるわ」


 しばらくの間、私と姉様、二人でのんびりとおしゃべりしながら、お茶を飲んで穏やかに過ごしていたのだけど、再び、部屋のドアがノックされた。

 ……今度は何?

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