第14章 おばちゃん、王都でひと暴れする

第129話

 窓の外は、綺麗に整えられた庭。小柄な老人が小学生くらいの子供と共に庭仕事をしている。庭師とその弟子ってところだろうか。

 一人大きな部屋にいる私は、窓から下の景色を見下ろしている。青い空にピチュピチュと鳥の鳴き声も聞こえ、本来なら長閑な風景なのだけれど。


「な~んで、こんなに赤い点々ばっかなのかねぇ」


 私は今、リンドベル家の王都の屋敷にいるはずなんだけど。な・ぜ・か、屋敷の中に赤い点がいくつも見えるのよ。

 ……地図情報、怖っ。


「これって、リンドベル家にスパイが潜んでるってこと? それとも単純に私に対する悪意? もう、便利なのに、わかりづらいよ、アルム様!」


 私が王城から下がった翌日から、こんな状況になってるのに気付いた。

 最初、国王様を始め、偉い人みんなから王城に滞在するようにって言われたんだけど、どうしてあんな物騒なところにいられるかってのよ。例え、自分で結界を張れるとは言え、真っ赤な点々まみれなところでなんて、おちおち休んでなんかいられないわ。

 さすがに地図情報のことは言わなかったけど、悪意感知のことを正直にそう言ったら、みんな顔を真っ青にしてたわ。そりゃそうよね。あんまり酷いと、私がこの国から出ていく可能性とかもあるものね。さすがに、シャトルワースの二の舞を踏むわけにはいかないでしょうから。

 だけど、王都の中で一番安全と思ってたリンドベル家の屋敷なのに、ここも王城と大して変わらない状況になってる。とほほ。


 そして肝心のシャトルワース王国に対しての対応については、レヴィエスタ王国に任せることにした。あの外交官含め三人のことも。

 幸いなことに、私に大した被害があったわけでもないので、命をとるほどのことはない、と伝えたけれど、どういう対応になるのかは、敢えて聞かなかったし、知りたくもなかったし。

 この世界では、私のこんな対応は甘いのかもしれない。実際、軍部、というのだろうか、そういう人たちは『戦争だ!』とか言い出したので、それはやめてくれ、と切にお願いした。

 この国の軍事的なことはわからないけど、どんな戦争であれ、それで苦労するのは一般市民なのだ。さすがに私自身は戦争経験者ではないものの、散々、テレビとかでそのての情報は見てきたからねぇ……この世界に近代兵器はないと思うけど、その代わりとなりえる魔法はあるんだもの。

 ……もしかして、あの赤いのって、ストップかけたのを根に持ってる奴らかしら。それにしても、動き、早っ。


「ほんと、王都って物騒だわぁ……」


 滞在期間が短かったせいもあるかもしれないけど、リンドベル領にいた時には、こんなことなかったのに、って思ってしまう。もしかして、戻ったら同じようなことになるんだろうか。


「どんな所でも、権力のあるところってのは、魔窟っていうもんなんでしょうねぇ」


 ついつい、大きくため息をついてしまう。

 不意に思い出すのは、以前、夫とテレビで見ていた大奥やら戦国時代やらのドラマのこと。


『越後屋、お主も悪よのぉ』

『何をおっしゃいますか、クククク』


 薄暗がりでそんなやりとりをしている場面が頭をよぎる。西洋風には変換できなかったのは残念だけど、この世界にも、そういう持ちつ持たれつな権力者たちがいるてことは、簡単に予想はつく。

 基本、『人間』ってモノはどこでも同じなのかもしれない。


「早いところ、リンドベル領に戻りたいわ……」


 ふぅ、と大きなため息が出てしまう。

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