第210話

 ちなみに、チビ精霊王たちは私以外には光の球に見えてたらしい。私の苛立ちに反応してか、ビカビカ光って、もうね、悪魔の囁きをするのよ。


「なぁ、あいつら消し去ってもいい?」

「いや、どうせなら国ごと消すか」

「ここのお城、趣味悪いし、いいんじゃない?」


 チビ精霊王たち、子供みたいな高めの声で、すんごい勝手な言い草で、ブチブチと文句言っている。さすがに、私もそこまでするつもりもないし、させるつもりもない。

 実際、せっかく初めての帝国ってところに来たのに、観光もしないうちに国ごと消しちゃったら、もったいない。その趣味の悪いって言う王城も見てみたい。どんだけ趣味悪いのかってね。それに他国も大勢やってきてるのに、関係ない国巻き込んでの戦争もどきなんてとんでもない。どうせやるなら、終わってからでいいんじゃない? と。

 そう言ってチビ精霊王を宥めたけれど、帝国側の騎士たちの方はビビってた。私が精霊を宥めた言葉に。たぶん、チビ精霊王たちの言葉はわからなかっただろうけれど、あのビカビカ具合に、彼らが怒ってるのは通じてたとは思う。

 まぁ、私の最後の言葉は冗談半分だったけど、ニヤリと笑った私に騎士たちは顔を引きつらせてた。それぐらいの意地悪、いいわよね?


 そういう経緯の元、私一人で、VIP席にいる訳だ。

 イザーク兄様たちは、アリーナ席っぽいところに集団になってるらしい。目を眇めてみて、デカくてイケメンな兄様の姿が目に入った気がして、なんとなくあの辺かな、というあたりだけはついた。

 一人、と言ったものの、実際にはチビ精霊王たちが、フワフワと浮かんでいる。もう、チビ精霊王たち、隠れるつもりないんだもの。溜息しか出ない。

 転移陣の間での出来事や、私の周りに飛んでたチビ精霊王たちの話は、すでに帝国の王族たちも聞いているんだろう。これ以上、私を怒らせないためなのか、メイドが一人、軽食が載ったワゴンを押して入ってきて以来、誰一人近寄って来ない。

 祝福とかいうのが欲しかったんじゃないのか!?

 ムッとしながら、用意されていたサンドウィッチみたいなのに手を伸ばす。気が付けば昼近くになっていて、朝が早かったから、お腹空いてしまった。

 モグモグしながら、なかなか式典が始まらないなぁ、と思ってたら、ドアの外が何やら騒がしい。

 ここで出て行ったら、何かに巻き込まれそうな予感しかしないから、大人しくするに限る。それでも、ドアに目を向けながら、紅茶に口をつける。うん、なかなか美味しい。


「失礼しますっ!」


 ノックもなく、いきなりドアが開く。入って来たのは、さっき転移陣の部屋にいた騎士の一人だった。


「……ノックもなく、入ってくるとは、帝国の程度というものが知れますね」

「も、申し訳ございませんっ、せ、聖女様、なにとぞ、お力をお貸しいただきたくっ」


 嫌味のつもりで言ってみたものの、騎士の顔色が悪い。ビカビカと光りながらチビ精霊王が飛んでるからかもしれない。学習能力ないんだから、仕方ないよね。


「何かあったのですか」

「お、恐れ入ります。隣室まで、来ていただけませんでしょうか。皇帝がお待ちです」


 呼びつけられました。

 まぁ、相手が相手ですからね。大人な私は、溜息一つついて、椅子から立上った。

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