第313話
他の精霊たちの部屋も覗いてみては、ああでもない、こうでもない、と皆で笑いながら見て回った。一応、ちゃんと祈りもした。それが彼らに届くのかどうかは、よくわからない。何せ、私には精霊王様たちがついているもので。その配下といえる精霊たちにお願いする意味が、あるのだろうか、と思うのだ。
「軒並み、皆、別人だったね」
『うむ。土のがまさかのドワーフのような身なりの者とは思わなんだよ』
そう言って火の精霊王様が、クククッと喉を鳴らすように笑う。うん、私の知ってる土の精霊王様は、ぽっちゃりナイスバディなお姉さんだからなぁ。
ちなみに、水の精霊はまるで北欧のオーディンのような筋肉ムキムキだし、風の精霊は羽の生えた美女だった。色々と考えて、遠い目になる。
「本人たちは知らないんでしょ?」
『いやぁ、あいつらのことだ。知ってて放置しているんであろう』
「……さすが、懐が深いねぇ」
私たちが教会から出てきたのと、ほぼ同時に、イザーク兄様の元に伝達の青い鳥が飛んできた。前回のに比べると、ずいぶんと小さい子だ。
「やはり、アルム神の教会の方を指定してきたようだ」
「時間は」
「なるべく早くとのことだが……教会に行けば話が通じるようにしてくれるらしい」
「今から行った方がいいかしら」
そう言いながら空を見上げると、すでに陽が傾きかけている。
「遅くなると、宿もとれなくなるだろう。まずは、宿を押さえてから、教会の場所を確認しよう」
通り沿いの宿屋を覗いていくが、イザーク兄様の言葉通り、結局街の中心地の良さそうな宿屋には空きが見つからず、少し離れた所でなんとか中の下程度の宿屋に部屋をとることができた。
ついでに女将にアルム神の教会のことについて聞いてみると、都合のいいことに宿の目と鼻の先にあるという。全然気付かなかったということは、それなりってことなんだろう。
「そういえば、ここではハロイ教の話は聞こえてこないね」
部屋に荷物を降ろしながら、パメラ姉様に声をかける。
一応、身内だけではあるものの、男女に部屋はわけてもらったので、ここにいるのはパメラ姉様だけだ。
「コークシスでも聞かなかったんだもの、ここまではまだなんじゃない?」
「帝国止まりってことなのかしら」
その帝国での足がかりも、精霊王様のお怒りで、だいぶ崩れてしまったようだし。むしろ、帝国は諦めて別の所に拠点を置いて、力を蓄えてるとか。考えただけで、ブルッと身体が震える。
部屋を出てすぐ、イザーク兄様たちと合流すると、当初の目的通りに教会へと向かう。本当にものの二、三分でついてしまった。精霊の教会と比べると、だいぶ小さいし、なかなかに簡素な造りだ。それだけに、ウルトガ王国での扱いというのも知れる。
すでに陽は落ちている。この時間でも教会に入れるのか心配だったけれど、誰でもが祈りに来れるように、ずっと開いているらしい。
教会の中に入ってみると、薄暗い無人の礼拝堂。ロウソクの小さい火が、チラチラと動いているが、あまり明るくはない。ドアの開く音に反応したのか、誰かが奥から出てきた。
「何方かな」
現れたのは、黒い司祭の服を着た黄金色の毛並の狐の獣人だった。少し年を召しているのと、着ている服のせいか、なんとも神秘的な雰囲気を醸しだしていて、私から見ると司祭というよりも陰陽師みたい、とか思ってしまった。
先頭を歩いていたイザーク兄様が声をかけると、司祭はコテリと首を傾げてから私たちの方へと目を向けた。私は双子の後ろにいるから、彼には見えないかもしれない。隙間から見える彼の様子から、もしかして、まだ話がきていないのではないだろうか。
しかし、すぐに頷いて、司祭は伝達の魔法陣で誰かに連絡をいれたようだ。獣人にはあまり使われない、という話だったけれど、この司祭は少し違うようだ。
「少し時間がかかるでしょうから、どうぞ、奥の部屋へ。お茶でも出しましょう」
そう言って促す司祭だったけれど、私は、その前に祈りだけをさせてください、とお願いする。何せ、しばらく教会になど来ていなかったのだ。この機会を逃すわけにいかない。
「では、祈りを終えたら、奥の部屋へどうぞ」
司祭はニッコリと微笑む。
うん、やっぱり陰陽師っぽいな、と再び思ってしまったのであった。
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