第312話

 王都に入ってすぐ、街の人に教会の場所を聞いて驚いた。ここには二種類の教会があるそうだ。一つは当然、アルム神を祀る教会、もう一つは、精霊を祀る教会。なんと、精霊もアルム様と同等の扱い、いや、教会の大きさだけだったら、精霊の方がでかいらしい。


「……ねぇ。ウルトガの王太子にとって、教会、って言ったら、どっちを指してると思う?」


 私だけ馬に乗りながら、街中の道を進んでいく。馬上から見ると、人の流れが中央に向かっていくのがよくわかる。視線を上げれば、遠くに大きな要塞のようなお城が見える。そして、その近くに並ぶように、尖塔をいくつも建てている教会らしき建物も。きっとあれが、精霊を祀っているという教会なんだろうか。


「我々の常識的には、アルム神様の教会なんだがな」


 私の乗っている馬の手綱を引きながら、歩くイザーク兄様も、困った顔になっている。


「だよねぇ……でも、きっと焦って来てたろうから、精霊の方の教会のことを言ってた可能性もあるよねぇ」

「……すぐに目につく精霊の方の教会に行ってみればいいんじゃない」

「イザーク兄さん、あちらからは返事は特にないのよね?」

「まだだな。あちらも、ウルトガとのやりとりがあるのだろう。先程のヤギの老人じゃないが、伝達の魔法陣のやり取りが出来る者が、多くないのであれば、時間がかかっても仕方あるまい」

「でも、急ぎなんだよねぇ?」


 そんな話をしているうちに、徐々に教会と思しき建物が近づいてくる。尖塔の数は、四本だった。もしかして、あれは精霊の数を示しているんだろうか。教会に近づくにつれ、人の数が増えてくる。どうも、ほとんどの人が教会へと向かっているらしい。

 私たちは馬を預けると、人の流れに沿って教会へと入っていく。

 中に入ると、中でまた四つに分かれる構造になっていた。それぞれの入口の上に、それぞれの精霊の紋章なのだろうか、水・火・風・土を示すデザインの看板のようなものがかかっている。一番人気なのは、どうも火の精霊のようだ。これはウルトガ王家との関りがあるからだろうか?

 私たちも、その流れにのって、火の精霊を祀っている部屋へと入っていく。私の右手は、なぜかイザーク兄様に握られている。まぁ、この人ごみだ。迷子になりそうなのは否めないが、ちょっとだけ納得がいかない。


『……初めて来たが、なんとも微妙だな』


 ぼそりと私の耳元で呟いた火の精霊王様。今は、小さな光の玉の状態。


「来たことなかったの?」

『わざわざ私が来るような所でもあるまい』

「あ、そうか、下っ端が眷属にしたとか言っていたっけ? 」

『勝手に敬われてもな』


 ふんっ、と鼻を鳴らす、火の精霊王様。まぁ、気持ちはわからないでもない。正面に見えてきたのは……どう見ても子供の姿をした偶像だもの。


『あれは、けして私ではないぞ……下っ端の、それもまだ精霊になって間もない頃のだろう。妖精であれば羽が生えているはずだしな』

「なるほど……全然別人なのに、ヘリウスたちはよくわかったね」

『精霊の力を感じ取ったのだろう……それだけ、あやつらの加護が強いともいえるがな』


 そういえば、アルム様のは、全然別人だった。誰も姿を見たことがなかったんだろうって思うけど、下っ端は人に加護を与えるためにでも、姿を見せたのかもしれない。


「他の精霊のも見てみたいかも」

『うむ、私もあいつらのはどんな姿なのか少し興味があるぞ』


 声だけが、ワクワクしているのが伝わってくるから、私もクスッと笑ってしまう。

 私たちの会話は聞こえていなかったのか、周囲に注意を向けていたイザーク兄様と双子たちが「こんなに混んでるような場所じゃ」と話をしているのが聞こえてくる。確かに、こんなところで王家の関係者が入ってきたりしたら、そりゃぁ、大騒ぎになるだろう。


「やはり、アルム神を祀っている方の教会か」

「きっと、ここほどの混雑はないだろうからな」


 ……ちょっとだけ、アルム様が可哀相に思ったのは、秘密だ。

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