第25章 おばちゃん、モフモフに癒される
第311話
いきなりウルトガの教会に現れるとなると、不審者以外の何者でもないだろう、ということで、とりあえず、ウルトガの王都の少し手前に飛んでもらうことにした。
コークシスにも連れてきていた二頭の馬に、それぞれ、私とイザーク兄様、双子の組み合わせ。私はパメラ姉様と一緒でもよかったけど、イザーク兄様とニコラス兄様が嫌そうな顔になったので、仕方なく、そう、仕方なくイザーク兄様と一緒に乗ることになった。
一応、レヴィエスタの国王陛下にはイザーク兄様から連絡をしてもらったけれど、ウルトガ側はこんなにすぐに来るとは思っていないだろう。
出迎えも何もないだろうから、さっさと王都に入ってしまうに限る。
「わかってたつもりだったけれど、見事に獣人ばっかりなのねぇ」
街道を馬に乗りながら進んでいると、目に入ってくる旅人たちの姿に目が奪われる。
熊やゴリラのような大柄な者もいれば、羊の巻いた角を持った者、犬や猫のような耳や尻尾を持った者など様々だ。むしろ、私たちのような人族の姿の方が珍しいのか、周囲からたくさんの視線が向けられる。
確かにヘリウスとイスタくんと短いながらも一緒にいたから、なんとなく慣れた気でいたけれど、こんなにもいろんなタイプの獣人がいたとは知らなかった。
「獣人の国だしね」
「それはそうだけど」
揶揄うようなパメラ姉様の声。まぁ、当たり前なことを言った自覚はある。
しかし、地続きの大陸なのに、レヴィエスタやシャトルワースでも獣人の姿を見なかったのが不思議だった。ただ、イザーク兄様に聞くと、帝国に留学していた時でも、あまり姿を見たことがなかったらしい。
それというのも、帝国とウルトガの間にあるのが、コークシス、それにドワーフの国のソウロン王国と、人族主体のナディス王国というのがあるらしい。ソウロン王国は高い山に囲まれて、山越えがかなり厳しいらしく、もう一方のナディス王国は、人族至上主義で獣人の差別が激しいらしく、好んでその国を通ることはないのだとか。そして、むしろ海を挟んだ反対側の大陸に行く者の方がいるらしい。
「今回はどちらの国も通らなかったけど、一度はドワーフの国は行ってみたいなぁ」
「そうね、ハリー伯父さんの親戚もいるし、行ってみてもいいかも」
「ハリー伯父さん?」
「やだ、忘れたの? シャトルワースから戻ってくる時に会ったじゃない」
「……おう」
すっかり忘れていた。あの見た目ドワーフの人だ。確か、エンロイド伯爵だったか。あれも、すでに一年以上前の話だ。懐かしい。
そんな風に話しているうちに、王都の入口の大きな門の前まで辿り着く。獣人たちも長い列に大人しく並ぶんだ、と感心していると、脇をすごい勢いで何者かが駆け抜けていった。
「あっぶなっ!」
思わず声が出ても仕方ないだろう。しかし、他の獣人たちは何も言わない。さも、当たり前のことが起きたかのようだ。それを不思議に思っていると、ちょうど脇に並ぶように歩いていた、ヤギのような白い髭を長く伸ばしたおじいちゃん獣人……たぶん、本当にヤギの獣人なんだろうな……が、目を細めながら教えてくれた。
「仕方ないのだよ、ありゃぁ、軍の伝令係じゃろうて」
「伝令係?」
「お前さんたちは、人族か。人族は魔法で伝達を使える者がおるそうだが、獣人にそれを使える者は、そう多くはないんじゃ。魔術師がいないわけではないが、そういう者はまた違う仕事があるからの……多少時間はかかるが、足の早い獣人が伝令を任されてるんじゃ」
「……なるほどねぇ」
すでに先程の伝令の獣人の姿は見えなくなっているけれど、彼が駆け抜けていった方に目を向ける。
「何かあったんですかねぇ」
「いやぁ、この時間なら、通常の報告じゃろうて」
「え、まさか、毎日こんなことやってるんですか?」
「ほっほっほ」
私の呆れた声に、ヤギのおじいちゃん獣人は楽し気に笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます