第310話

 めんどくさい、めんどくさい、とブツブツ言っていると、いつの間にか双子とイザーク兄様が話を進めている。


「なるほど……しかし、解毒薬の材料を揃えて、戻ったのだろう?」

「うん、でも、こちらに連絡が来た時間差を考えると、まだ彼らは国に戻ってないよね?」

「それよりも先に、『聖女』に来てもらいたいってこと?」


 たぶん、今頃、ヘリウスたちはコークシスの王都に向かっている頃だ。材料が揃っている連絡は入れているだろう。たぶん、が。

 なのに、それを待つ暇もなく、先に『聖女』を求める理由。『聖女』でなければならないのは、何? 治癒であれば教会の関係者でも十分なはずだ。であれば。


 ――浄化か。


 解毒薬の指示をした後に、浄化が必要なことがわかった、というのだろうか。しかし、浄化が必要になるとか、何が起こっているんだろう。


「私が旅に出ているのって」

「……ミーシャがレヴィエスタを出てしばらく経つ。魔物の出没頻度も変わっていてもおかしくはないからね。その手の報告が上がっているだろう……ミーシャがリンドベル領を離れているというのは、察しているんじゃないかな」


 なるほど。当然それなりに情報網を持っているわけか。

 でも、その上で私に『依頼』してくるということは。


「……兄様、国王陛下は私の転移のこと、ご存知でしたっけ?」

「いや、それについては報告していないけど、ミーシャには精霊王様がついているだろう?」

「あう……そうか、忘れてた。それを知ってて……それで戻って来いってことか」


 あくまで『依頼』という形にしてはいるけれど、命令と変わらない気がするのは、気のせいだろうか? 大きなため息が出てしまう。

 別に、このまま放置したって、私的には困ることはない。正直、会ったこともない相手だ。ヘリウスたちの身内ってだけだし、そこまで深く関わりたいとも思わない。だいたいが、『依頼』なわけだし。

 チラリとヘリウスたちのことが頭をかすめる。


「手紙には、ウルトガの教会に祈りに行って欲しい、という趣旨だったよね」

「そうだったわね」

「教会に行って、そこで偶然王室の誰かと会う、とかいう段取りなのかしら」

「……番の件は、公表されていないのかもしれないね」


 確かに大っぴらに言う話でもない。

 

「……ウルトガとレヴィエスタ、両方の王家に恩を売っておいてもいいかもね」


 色々と巻き込まれる前に、さっさと行って、さっさと帰る。これが一番かもしれない。

 私はベッドから飛び降りて、三人に目を向ける。


「まずは、イザーク兄様、国王陛下にお返事出してもらえる? とりあえず、ウルトガに直接行きますって。」

「わかった」

「精霊王様?」

『聞いておった……ウルトガに行くのか』


 今日はミニチュアの火の精霊王様だ。


「まぁ、行かなきゃ行かないで、後味悪そうだし」

『連れて行くのは構わないが、コークシスでやることは、もういいのか?』


 ああ、精霊王様に気を使われてしまった。私はニッコリと笑って見せる。


「そうね。おいしいお茶も苗も買ったし。私の目標は達成してるわ。一度森の家に戻って、苗を植えてしまいたいけど、あの『依頼』の様子だと、そんなに時間もなさそうだしね」

『では、さっさと行って片付けてしまおうではないか』

「ちょ、ちょっと待って、荷物とってくる!」


 ニコラス兄様が焦ったような声をあげて、部屋を飛び出していく。


『……さすがに、私もいきなり行くほど馬鹿ではないぞ』

 

 呆れたような火の精霊王様の言葉に、皆が笑い声をあげたのは言うまでもない。



 そして、私たちは、一気にウルトガ王国へと飛ぶことになる。

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