第314話

 司祭がいなくなると、完全に人気ひとけがなくなる礼拝堂。目の前には、別人なアルム神の小さな像が祀られてる。微かに鼻につくロウソクの燃える匂いは、獣脂のせいだろうか。

 その中で私たちは祭壇の前に跪き、目を閉じると……音もなく、すぐに場所が変わる。

 ちょっと、早すぎじゃないっ!?


「待ってたわよぉぉぉっ!」

「ぶわっ!?」


 いきなり抱きかかえられて、大きな声が出る。


「もう、もう、もう! すんごい、久しぶりなんだからぁっ!」

「ちょ、ちょっと、アルム様っ、ぐ、ぐるしぃぃ」

『何してるっ!』

『放しなさいよっ!』


 ギュウギュウと肉厚な胸に抱きしめられ、振り回され、窒息しそうになるのを、水と風の精霊王様になんとか助けられた私。


『何やってるんだ』


 呆れているのは火の精霊王様。地の精霊王様ですら、苦笑いしている。

 なんなんだ、あのテンションは。私も、大きくため息をつく。


「だって、だってぇ! 精霊王たちはいいわよ、しょっちゅう会っているんだしぃ。でも、私は、滅多に会えないんだからぁ!」

「……いや、普通、神様となんて、会えないよね」

「えー、美佐江、ひっどーいっ!」


 うん。わかってた。この神様が、こういう神様だって。

 ギャーギャー煩いアルム様を引き連れて、私たちはいつもの白い部屋の方へと向かう。大きなソファに座ると、両サイドに美女二人に挟まれて、両手に花。眼福、眼福。


「一応、皆から、状況は聞いてたり、時々、見る様にはしてるんだけど……最近は、どうよ?」

「どうよって……旅は楽しんでるわよ、でも、ちょっと、面倒ごとに巻き込まれることが多い気がするのよね……これ、まさか、アルム様のせい?」


 ジトリと目を向けると、アルム様は心外だと言わんばかりに、頬を膨らませる。

 ……いい年した大人の男がやっても、可愛くないから。


「ちょ、ちょっと、失礼しちゃう~!」


 いつの間にか、テーブルにティーセットやら、お茶菓子らしきものが並べられていて、アルム様の手にはすでにティーカップまである。


「いや、だって、前の人生で、ここまでトラブルに巻き込まれることなんかなかったし」


 むしろ、今の現状と比べたら、かなり平穏無事な方だったと思う。


「さすがに、そういうの私のせいにされると、傷つくんですけどー」


 拗ねたように言いながら、お茶を口にするアルム様。まったく、それでも絵になるから、ムカつくわ。


「じゃぁ、イザーク兄様は?」

「う゛んっ!?」

「イザーク兄様に、な・に・か、した?」


 私の言葉に一瞬固まり、う、うーん、と考え込んで見せるアルム様。

 その顔、なんか造ってる感、ありありなんだけど。そのわざとらしさに、……あ、絶対、何かやってる……そう、私の直感が言っている。

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