第22章 おばちゃん、海賊と遭遇する

第252話

 この時期は海が荒れることが多い、と聞いていたんだけれど、私たちが港町についた時は、穏やかな晴天。海も凪いでいて、どこが荒れてるんだよ、という感じ。海は荒れてはいないが、南下したせいか、少しばかり暖かい。

 港の方へと歩いていくにつれ、威勢のいい声が聞こえてくる。どこの世界でも海の男達ってのは荒々しいものらしい。

 大きな旅客船のようなのもあれば、貨物だけを扱っているような船もある。漁船らしきものは見当たらないから、漁港はまた別にあるのかもしれない。


 荷揚げをしている船がいくつも並んでいる中、大きな建物へと向かう。そこでチケットを買うようだ。荒くれ者っぽい人もいるけれど、貴族や商人みたいな人も出入りしている。かなり大きな港ってことなのだろう。

 ニコラス兄様を先頭に中に入る。見事に視線は双子に集中。それをものともしないとは、さすが。さっさと人が少なそうな列に並んでしまう。

 それでも少し待つことになったが、なんとか受付まで辿り着く。目の前のカウンターのお嬢さん、かなり嬉しそうな笑顔になってる。両サイドのお嬢さんたちの妬みの視線にも、無反応。鋼の精神に脱帽だ。


「コークシスまで三人なんだが」

「はい。今からですと、明朝一番で出るのがあります。大型船なので、少しお高めになりますが。ただ……」

「何か問題でも?」

「ええ……」


 困ったような笑みを浮かべながら話し出す受付嬢。

 曰く、エシトニア周辺の海域の天候の方は落ち着いているのだけれど、昨今、帝国の沿岸周辺はかなり荒れているらしい。そのために、コークシスまでの海路が、かなり大回りになってしまっているそうな。その大回りの途中、ヨレウ群島と言われる地域で一度寄港していくことになっているらしいのだが、その群島には海賊が頻繁に出没しているらしいのだ。


 精霊王様たちのお仕置きの影響が、ここにも出てきてるのか。私が悪いわけでもないけど、ちょっとばかり申し訳ない気分になる。

 それにしても、海賊とは。私の頭の中に浮かぶのは、映画で見た、イケメン俳優がやってた海賊だけど、そんないいもんじゃないんだろうな。


「普通に運行しているようだし、当然、護衛も乗船してるんだろう?」

「ええ、ですが」

「それよりも、大物の魔物とかはどうなの?」


 ニコラス兄様と受付嬢との会話を遮って、パメラ姉様が身を乗り出す。海賊よりも魔物のほうが気になるところなのか。


「今の時期は海流の関係もあって、クラーケンなどの大物はいませんね。むしろ北の方に行く船のほうが危険です」

「残念。久しぶりに魔物狩り出来るかと思ったんだけど」

「いや、パメラ姉様、そんな面倒なこと、止めておきましょうよ」

「え~、だって、最近、狩りしてないから、腕がなまっちゃって」


 そんな風に残念がるのは、パメラ姉様くらいな気がすると思ったら、ニコラス兄様も残念そうな顔をしている。実際、ここまで、まったくと言っていいほど魔物とも盗賊とも遭遇しないで済んでしまった。私は安全でのんびり旅行気分を味わっていたんだけれど、冒険者の双子には、非常に物足りなかったらしい。


「……二人とも、それは海賊用にとっておいてください」

「は~い」

「了解~」


 私の言葉に、パメラ姉様とニコラス兄様の鮮やかな笑顔。それに受付嬢もポッと頬を染めているし、あちこちで黄色い悲鳴やら、野太い呻き声が。毎度のことながら、遠い目になる。


 とりあえず、私には護衛の精霊王様もいるし、なんとかなるだろう。たぶん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る