第97話

 その後、ジーナ様は泣き疲れたのか、またすぐに眠りについてしまった。

 私を強く抱きしめてきた時には、苦しくてどうしようかと思ったが、ジーナ様の、思いの外細い身体に、酷く心配になった。


 私たちは、部屋を出ると、リンドベル辺境伯の執務室へと向かう。家族総出となると、広いはずの部屋も狭苦しい。


「ミーシャは私の隣ね」


 そう言ってアリス様が一人掛けのソファに私を抱き寄せながら座る。ニコニコと満足げに笑みを浮かべる様は、まるで女神様。周囲は諦め顔で苦笑いしているけれど、エドワルド様だけは、口惜しそうに文句を言った。


「アリス! 私も彼女と座りたいのに」

「あー、エドワルド様? お忘れかもしれませんが、こう見えて、私、いい年のおばさんなんですけどね」

「そ、それでも! 今は子供であろう?」

「……あなた」


 アリス様の冷ややかな声に、ピキンッと固まるエドワルド様。うん、かかあ天下が、夫婦が長く続く秘訣よね。私も、苦笑いするしかない。


「……ミーシャ、やはり、あなたは」

「ごめんなさい。こんな形だけど、中身は四十七歳の女性なんです」

「……わかっていたことではありますが、本人から言われると、なんとも……」


 ヘリオルド様は少し寂しそうに微笑む。

 ああ、きっとこの人とジーナ様の間に生まれていたら、きっと美しい子供だったろうなぁ。そう思うと、余計にシャトルワースの連中に怒りを覚える。


「それよりもミーシャ。さっき言ってたのは本当かい?」


 イザーク様が真剣な顔で聞いてくる。


「はい。あれ、皆さんには見えませんでしたか?」

「うむ。私には何も見えなかった」

「ええ、私にも」


 不思議に思いながらそう聞くと、エドワルド様もアリス様も否定されてしまった。


「おかしいなぁ……私には、かなりハッキリ見えてたんですけど」

「……もしかして、それ、呪いの一種だったりして」

「ニコラス!」

「……呪い?」


 パメラ様に叱られて、うへぇってなってるニコラス様。しかし、まさかの『呪い』発言。それって目に見えたりするもんなのかな。


「普通は目に見えたりなんかしないけど、もしかして、ミーシャは聖女だから、見えるのかなって思っただけだよ」

「え、誰も見えないの? そういうの」


 まぁ、あっちの世界でも見えないけど。そもそも呪い自体が、あやふやな存在ではあった。でも、この魔法のある世界では普通に見えるのかなって思ったら違うようだ。


「そうだな。ミーシャ以外で見ることができる可能性があるのは、高位の神官くらいかもしれない。けして多くはないがな」


 イザーク様のその言葉に、それだけ貴重な存在だと言われていることに気付く。うん、聖女だしね。当たり前だよね。そんなに自覚はないんだけど。

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