第98話

 部屋の中は重い空気で沈んでいる。まさかの『呪い』の可能性に、皆、考え込んでしまった。


「まさか、ジーナを恨むような者がいるだなんて」

「ていうか、まだ身体が落ち着いてもいない相手にすることじゃないよね」


 美しいアリス様の眉間に皺が寄る。パメラ様が怒りも露わにブツブツ文句を言う。


「……殺したいってことじゃない」

「ニコラス!」


 うん。ニコラス様、私もそう思う。不謹慎だってわかっても、そう予想するよね。


「でも、ミーシャが触れようとしたら、消えてしまったのだろう?」


 エドワルド様に聞かれ、頷く私。確かに、触れる前に消えてしまった。ということは、呪いが消えた、ということだろうか。


「じゃあ、呪いはなくなったってこと?」

「パメラ、そう簡単な話じゃない気がするけどね」

「ニコラス! なんで、さっきから否定的なことばっかり言うの」

「大事だろ。誰かが最悪の場合を考えていた方が、何かが起こる前に身構えられるし」

「そうだけど! そうだけど、そうじゃないでしょ!」


 双子は仲がいいなぁ。喧嘩してても、じゃれあってる風にしか見えない。


「しかし、誰がそんなこと」

「ヘリオルド兄さん、そんなの単純なことじゃないか」


 呆れたように言うニコラス様。私とニコラス様は思考回路が一緒なのかもしれない。


「ライラたちの誰かに決まってる」

「……ライラって誰?」


 初めて聞く人の名前。まぁ、たぶん、義妹の名前なんだろうけどね。一応、確認。


「ミーシャは知らないか。ジーナ義姉さんの妹の一人だよ。ジーナ義姉さんには二人の妹がいてね。どっちも母親は違うんだ。上の子がライラ、下の子がリリー。ヘリオルド兄さん、見舞いに来たのって、この二人?」

「いや、あと、従姉だという女性も連れてきていた」

「従姉?」

「ああ、ライラたち二人よりも年上のようだったが。名前までは覚えていないな。仕事中だったから、軽い挨拶だけしかしていないんだ」


 額に手を当てながら思い出そうとしている姿は悩ましい。無自覚な色気って、罪だわ。身内はそれに気付いていないようだけど。その姿を見ただけでピンとくるよね。その三人の女性たちの目的って。


「ねぇ、ニコラス様、もしかして、その義妹たちとは最近まで疎遠だったりする?」

「フフフ、『ニコラス兄さま』って呼んでくれてもいいんだよ?」


 いやいや、今はそんな話をしている場合じゃ。


「えー! だったら私は『パメラ姉さま』!」


 おいおい。


「ニコラス、パメラ、いい加減にしろ」


 ほら、イザーク様に怒られた。


「あー、ミーシャ、確かに、あの二人がこの城に来たのは久しぶりかもしれないね」

「そうね。私が会ったのは二年前の学園の卒業の時かしら。ライラは学校が一緒で同級だったからね」

「そういえばそうだったね。すっかり忘れてたよ」

「あまり親しくしてなかったからよくは知らないわ」

「……まぁ、パメラならそうだろうな」

「……うるさいわね」


 うん。相性ってあるよね。特に女同士って難しいし。それでも、義理とはいえ親戚にあたる女性に対して、パメラ様みたいに竹を割ったような性格の女性が嫌がるってことは、なかなか面倒そうな相手だなって、思ってしまう。

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