第99話

 私の問いかけの意味に、すぐに気付いたのはアリス様。


「まさか……あの子たちが、ジーナを?」

「私は知りませんからね、その方達の人柄とかは。でも、第三者から見たら、普通に怪しいって思うんですけど」


 冷たいようだけど、私は私の考えを言う。身内ってだけで、見過ごせる状況ではない。


「いや、しかし……仮にも自分の姉だろう」


 イザーク様は眉間に皺をよせ、私を窘めるけど。


「甘いですねぇ……イザーク様。女はそんな単純な生き物じゃないんですよ」

「……ミーシャのその姿で言われても、説得力がないんだが」


 困ったような笑顔で私に答える。まぁ、その顔はなかなかイケメンですが、そう言われたら、姿を変えてみせるよね。


「アリス様、ちょっと失礼」

「?」


 ニッコリ笑って、アリス様の席から立上る。

 子供の見かけでは納得いかないのなら、と、おばちゃんの格好になって見せようではないか。あちらの世界で一番おとなしめな格好……ビジネススーツしか思い浮かばん。そもそも、この世界の女性のような格好なんか、普段からしないもの!


「……おお。ミーシャ、本来はそのような姿なのか……」

「まぁ……私よりも、若々しいのではなくて?」

「……ミーシャなの?」

「……すごい」

「……ミーシャなのか?」


 皆の言葉に、イザーク様たち以外で見せるのは初めてだったか。と、思い出す。


「ええ、すみません。ちょっと若い頃の姿ですけど」


 そう。こんなビジネススーツ……紺のジャケットに膝丈のフレアスカートなんか着てたのなんて、三十代半ばくらいよ。

 エドワルド様たちは目を見開いて、口までぽかーんとしている。イザーク様は見慣れたのか、それほどでもないけど。オズワルドさんが目がキラキラしてるのは無視。


「さて。改めて。第三者の観点から、明らかに怪しい動きをしてるのが義理の妹さんたちですよね。ジーナ様が体調を崩された時期から考えても。それに、そもそも交流も多くない方が、わざわざこの城まで来るなんて、何かしら企みがあると思ってもおかしくないと思うんですが」

「しかし、ジーナを苦しめる理由が」


 ヘリオルド様は相変わらずお優しいというか。鈍感というか。


「……この世界のことは、まだよくわかりませんが。出産の後、産後の肥立ちが悪くて亡くなる方は多いのでは?」

「……ええ、そうね。私は、多くの子供たちに恵まれたけれど」


 アリス様が悲しそうに答える。


「ジーナ様も出産直後から、あんまり芳しくなかったのではないですか? 当然、その話はご実家にも届いていたはず」

「そうね……ヘリオルドにはそんな余裕はなかったかもしれないけれど、ジーナの実家からついてきている者たちからは、すぐに連絡がいったことでしょう」

「それを聞いて……ヘリオルド様の後妻、あるいは第二夫人……でいいのかしら? それを夢見るのは、ありがちな話なのではないですか?」


 私は頭を抱えたままのヘリオルド様を見つめる。私の言葉に反論するのなら、私の考えすぎ、と言えるかもしれないが、ヘリオルド様は顔を上げることはなかった。


「……確かに、王都にいた頃から、二人にはとても懐かれてはいました……しかし、私からすれば、大事な妻の妹。そう思っていましたが……先日の来訪で感じた彼女たちの視線は、『妹』というものからは異なるものを感じたのは事実です……」


 私がおばちゃんの格好になったせいだろうか。ヘリオルド様が敬語で話し始めた。そして、何かに気付いたかのように、ハッと顔をあげる。


「それに、今思えば、二人と同行していた従姉という女性……どこかで見覚えがあったような……」

「えっ。誰よ、ヘリオルド兄さま」

「……王都で会ったような……」

「セバスチャンを呼べ」


 エドワルド様の怒りのこもった低い声に、オズワルドさんはすぐに動いた。

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